スリ (映画史博物館)

問題作「スリ」 当時流行っていたヌーベルバーグを意識させない、フランスのロベール・ブレッソン監督による作品。犯罪を描いた映画は数知れないが、スリについてこうもまじまじと描いた作品は他にあるまい。銃撃戦もなく、麻薬取引もない。いたって地味で、狭い裏社会。そこに生きる一人の男。この映画はこの男の生き様を静かに綴っていく。この男、いつも同じスーツ姿である。寝るときもスーツ。彼の住んでいるアパートにはベッドしかなく、これといって何もない。ただ、ベッドの下に頂戴した時計などを隠しているだけ。そこでベッドの足を通行人の腕に見立てて腕時計を取る練習中ときたもんだ。この男の生活ぶりが興味津々の映画である。雰囲気でぐいぐいと見せていく。途中、スリのプロらしき男と出会い、スリの極意について学ぶところでのスリのテクニックをこれでもかこれでもかと見せつけるクロースアップ映像と音楽の融合ぶりが見事。ほとんどが音楽なしで描かれているが、非常に大切なところのみ、劇的な音楽が使われているところが巧妙である。

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