沈黙の世界 (映画史博物館)

問題作「沈黙の世界」 僕がドキュメンタリーについて言及するとき、しつこく引用してきたのがジャック・イブ・クストーの海洋探検映画である。そのひとつ「沈黙の世界」は、ドキュメンタリーの最も理想的なスタイルを持つ作品だと思っている。カメラワーク、編集の仕方、巧みな話術、テルミンを使った奇妙な音楽と、非の打ち所がない。言ってみればこれは劇映画を作るときと全く同じやり方である。登場人物のアクションのタイミングも示し合わせたようにピッタリで、事前にきちんと打ち合わせしているように思える。前半で、一人の男が海中から減圧せずに急に浮上して、窒素酔いを起こす一幕も、海洋探査ではこういうことが起きることを説明するために、わざと再現してみせているようにも見える。言葉が悪くなるが、こういうヤラセ的な手法がかえって面白い記録となることを証明している。これはレニ・リーフェンシュタールのやり方と同じで、ありのままを写すのではなく、その場の雰囲気に最も適した場面を演出することが、ドキュメンタリーの勝敗を決めるのである。途中で探検隊一行がある島を発見?して、島のカメたちとお友達になって、一緒に散歩するシーンなど、さりげないが、微笑ましく、これが正しいドキュメンタリーの作り方だと納得させられるだろう。

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