100年前のクラシック映画から映画史を読み解く


小津安二郎 (巨匠の歴史)

■小津だけにしかない小津スタイル

 小津は、キネマ旬報ベストテンで第1位を取った回数が最も多い監督であり、世界的にも評価が高く、各国の映画作家たちからも敬愛されている。小津映画がどの様なものであったかは、ヴィム・ヴェンダースが記録映画(「東京画」)にしているので、そちらも併せて見てもらいたい。

 小津映画のスタイルは非常に独特だ。それは一種の様式美に達した完璧なスタイルである。彼ほど自分のスタイルにわがままにこだわった監督はいまい。小津映画は雰囲気からして他の映画とは性質が異なり、何か落ち着いた空間美を感じさせる。ゆえに小津映画は見れば見るほど味わい深く、心に優しく残る。

 小津スタイルは大きく分けて三つある。
  第一は、正面からの低いカメラ・ポジション。レンズは決まって標準の50ミリ。ドリーも使わず、パンも一切しなかった。
 第二は、決してフェードイン・フェードアウト、オーバーラップをしないこと。小津はカットとカットを直接つないだ。画面に人物一人だけのカットもよく利用した。
 第三は、役者の動きを何もかも自分で決めること。「部屋を一周してこの位置で止まって、手を見てからセリフを言ってくれ」という風に細かく動きを指導し、役者は何も考えずに、小津の言われるままに動くだけだった。しかしそれが映画になると、ちゃんとしたドラマとして形になるのである。小津の頭の中では映画がすでにできあがっていたのである。
 こういったスタイルからもわかるように、小津はまさに監督主義であった。世界的に評価の高い「晩春」「東京物語」(写真)などは小津のその監督としての技量を知る集大成といえるシャシンであり、映画のバイブルである。

 
■小津はバタくさい監督であった

 ところで、小津の作品が、ハリウッド映画に影響されているのはあまり知られていない話である。小津は身なりからして、とにかくバタくさい感じのする男だったようで、幼い頃からハリウッド映画を何百本も見ていたという。
  監督になってからしばらくは、ハリウッドのどたばたコメディや犯罪アクションを意識した映画を数多く作っている。その経験が、突然にあの小津スタイルをひらめくきっかけとなったわけであるが、ここまで自分らしさを表現できるようになれた監督は世界で小津をおいて他にはいない。一度確立させたスタイルは、小津は死ぬまでやり通した。

 小津映画のテーマは「親子」だった。日本の一般的な家庭の何でもない日常を描いた。その飾らないストーリーと、絵画的ともいえる頑固なスタイルが、国際的な人気を得た結果となった。
  小津映画はいろいろな意味において価値が高い。若い世代のためにも、戦後間もない日本家庭の生活感を伝える遺産として、もっと紹介されるべきである。

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