ミッドナイトクロス (B級映画ラボ)

同じスタイルで見せたところで、つまらない
 今でこそカルトな人気を誇るデ・パルマ。若かりし彼が、従来のオカルト・ホラー路線から、現代派スリラーへと転向するちょうど節目に作った作品がこれである。これを「B級映画ラボ」で紹介する気になったのは、この映画の主人公がB級ホラー映画の効果マンだったから。愛する女の断末魔の叫びを、ホラー映画の悲鳴のサウンド・エフェクトに使うプロ根性が泣かせる作品だ。
 隠すまでもなく、これはアントニオーニの「欲望」のパロディであるが、デ・パルマは片っ端から自分のスタイルに塗り替えている。ありったけ飾りつけたクライマックスの緊迫感など、まさしくパルマ・スタイルそのまんまだ(褒めているわけではない)。タランティーノは「ミッドナイトクロス」を今まで見た映画のベスト・ワンと評していたが、デ・パルマの作品としては二流にあたるこれのどこに思い入れがあったのだろうか。トリックの見せ方としては「欲望」の方がずっと面白いのに。
 僕はデ・パルマは嫌いじゃないが、昔の映画の真似が多いことと、見せ場がどの作品も同じ手口であることが、最近になって許せなくなってきた。「ミッドナイトクロス」を見てみると、昔っからデ・パルマは代わり映えしてないのがわかる。デ・パルマの作品にはハンディカメラによる高速パンの映像が多いが、これを排除してみるだけでも印象は変わると思うのだが。スタイルをいつまでも捨てないことがデ・パルマのプロ根性なのだと、ひねくれた映画マニアは言うかもしれないが、そのまま今に至っていたのでは、クリエーターとしてのセンスを疑われても仕方あるまい。現代の人気監督には、デ・パルマ、ジョン・ウーのように、自分のスタイルをしつこく誇示する人が多いが、彼らはどうあがいても同じものしか作れないのだろうか。ふと僕はピカソの言葉を思い出した。「芸術家にとって最大の敵は、スタイルだ」

 



原題:Blow Out (タイヤのパンク)
製作年:1981年
製作国:アメリカ
監督・脚本:ブライアン・デ・パルマ
出演:ジョン・トラボルタ、ナンシー・アレン
上映時間:113分
DVD

タランティーノの好きな映画
「リオ・ブラボー」(59年/米)
「キャリー」(76年/米)
「ヒズ・ガール・フライデー」(40年/米)

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