アレクサンドル・ドヴジェンコ (巨匠の歴史)

映画の雛形を完成させたソ連映画界最後の師
●サイレント期のソ連映画界
 サイレント時代のソ連映画界は他の国とは明らかにスタイルが違っていた。これがいわゆる「モンタージュ理論」であり、映画編集の新しい雛形を完成させた。ヤーコフ・プロタザーノフを始め、レフ・クレショフ、ジガ・ベルトフなど、多くのソ連映画界の偉人たちが独自に新映画学を探求。中で、エイゼンシュタインとプドフキンはモンタージュの祖とされ、対照的に評価されている。ドヴジェンコは彼らに続くサイレント期ソ連映画界最後の巨匠となる。あまりにも出だしに遅れをとってしまったため、ドヴジェンコはあまり世間から評価されなかったが、ウクライナの農民たちの姿を叙情的なタッチで描写する手法は、エイゼンシュタインとプドフキンに「新しい映画作家の登場だ」と褒められた。しかし今日においても、何かとエイゼンシュタイン、プドフキンと比較される運命にある。

●モンタージュよりも映像美に力をいれる
 「大地」はブリュッセル万国博の世界映画史上ベスト12本の中にエイゼンシュタイン、プドフキンの作品と一緒に選ばれ、まさしく彼の最高傑作である。社会主義社会では農民たちはこんなにも幸せになれるという様子を、美しい映像で描いた社会主義賛歌映画だが、政治的な面よりも、美術的な面に話題が集中し、その意味でも批判の声もある。農村社会主義化については、エイゼンシュタインも「全線」でテーマにしていたので、比較されたが、エイゼンシュタインの叙事詩的なそれとはまるでスタイルがことなり、ドヴジェンコの作品はカッティングやオプティカル処理よりも個々の映像の感性に胸を打たれる感じであった。「大地」のラストシーンの雨上がりの中のリンゴの風景の何たる美しさか。ドヴジェンコは、映画史上、もっとも美しい映像を作り出した巨匠なのだ。
 ただ、他国で紹介された作品が少ないというところが残念である。日本で正式に公開された作品は「大地」と「イワン」の二本だけだ。本当は今こそ最も再評価すべき監督なのだが。

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