栗田やすお監督独占インタビュー (シネマガプレス)
先週当サイトで「緑玉紳士」を紹介しましたが、なかなかの反響でした。僕自身も「緑玉紳士」の大ファンで、その不思議な魔力に心底惚れ込んでしまった一人です。こんなに素晴らしいアニメーション映画をたった一人の日本人が作ったなんて感動モノですよ。これはもう監督に会うしかない! そう決心した僕は、監督の栗田やすおさんに直撃インタビューを決行しました。なぜ「緑玉紳士」が実写映画並の表現力を持つのか等、栗田さんに作品についての様々な裏話を語っていただきました。
--「緑玉紳士」のカメラワークは、まるで実写映画みたいに凝っていましたけど、何を見て勉強したのですか?
栗田『逆に言うと、そうしないとスピード感とか迫力のあるアクションを見せられなかったと思うんです。カメラの割り方は「ヒッチコック映画術」という本を見て勉強しました。それからヒッチコックのDVDを見て、気になるシーンをコマ送りで見たりしてましたね。「ヒッチコック映画術」はアメリカとかでよく映画の教科書になる本で、二回図書館で借りて読んだんですけど、この間の誕生日にやっと友人にプレゼントしてもらいました(笑)。映画のエッセンスが入っていて、すごく納得できる内容の本ですね。
ヒッチコックの「北北西に進路を取れ」とか見たら、話がつながってるようで、よく考えると結構めちゃくちゃなんですよね。かなりいい加減に作ってるんですけど、でも見ている方は全然そう思わないですよね。映画の世界に入って、次にどうなるのかと気を取られて最後まで見てしまうんですよ。「緑玉紳士」もそういうのを意識してます』
--調理室で牛の骨が出てくるシーンが一番好きです。骨なのにおいしそうなステーキになるところが最高に面白かったです。
栗田『骨はハリーハウゼンぽくやってみました。友達がハリーハウゼンを好きなんですよ。骨がステーキになるところは、絶対皆受けるんですよね。本人的には「WELCOME」の字が「WELCOW」になるところが気に入ってるんですけど、「WELCOW」よりもステーキの方が確実に受けるんですよね。
食べ物がおいしそうってのは、すごくよく言われます。食い物屋の息子としては嬉しいですよ。「注文の多い料理店」とか、小さいころ割と宮沢賢治の本が好きだったんで、オマージュ的にやってみたかったんです』
--ニック・パークの「ペンギンに気をつけろ!」に影響を受けたと聞きましたが、どういうところに影響を受けましたか。また、自分の作品のどういうところにそれが生かされていますか?
栗田『極端にいうと全部ですね。あれは理想形だったので、僕はニック・パークの背中しか見てなかったですね。他にもアニメーションは色々ありましたけど、他のことは全然考えず、ニック・パークよりも良い物を作りたいっていう一心でした。ニック・パークと僕の共通点は、お互いヒッチコックをお手本にしてるところですね』
--素朴な疑問ですが、撮影中は頭の中で何を考えてるんですか?
栗田『普通のアニメーターならしないのですが、僕は意外と音楽聴いたりとかしてます』
--音楽といえば、「緑玉紳士」は音楽がとても良かったです。ジャズを使ったり、ワタナベイビーさんの歌を使ったりしてましたね。
栗田『ジャズもワタナベイビーも、両方ともあんなにいいものがあがってくるとは思わなかったんで、そういう意味では恵まれていましたね。
グリンピース役の声は、始めっからワタナベイビーに決まっていたわけじゃなかったんですけど、もう決めなくちゃいけない段階になってきたときに、ふとワタナベイビーがいいんじゃないかと思ったら、もうそれ以外は頭の中で出てこなかったですね。・・・なんとなく鼻の形がそっくりですね』
--普段どういう音楽を聴かれるのですか?
栗田『聴く音楽は時期によってバラバラです。昔のロックとか、ビートルズだったらビートルズばっかり聴いていた時期があったり。ドアーズ、ポリス、ローリング・ストーンズとか、割とあの辺は好きですね。最近はキリンジばかり聴いてたりします』
--実写映画とアニメーション映画の違いは何だと思いますか?
栗田『その質問は意外ですね。セル画アニメとコマ撮りアニメの違いは何かという質問は結構多かったんですけど、実写とアニメの違いってのは初めてでした。その違いは、動いてくれるか動かすかです。自分が監督と俳優の両方の立場をやらないといけないところかな』
--最後の質問です。映画を作る上で、最も大切なことは何ですか?
栗田『僕はエンターテイメント映画を作りたかったんで、やっぱり評論家さんよりも一般のお客さんが見て「わあ面白い」と言ってもらえるのが一番嬉しいんで、そう言ってもらえるような作品を作るのが僕にとって一番大切なことですね。「金返せ」と言われるような映画を作るのが一番ダメなことです。さんざん子供のころSF映画を見てたんですけど、映画を見て裏切られる時って、すごく残念なんですよね。楽しみにしてみて、思っていたよりももっと面白かったと思わせるのが、僕が映画をやりたい動機といえば動機ですよね。テーマとか哲学とかは二の次になっちゃいます』
1975年大阪府高槻市生まれ。5歳のときから中3まで絵画教室に通う。レコード店、レンタルビデオ店などを営んでいた映画好きの父(現在は喫茶店経営)に連れられていった「スター・ウォーズ」を見て熱狂する。デザイン専門の高校、大学に進学。授業で切り紙アニメーションに興味を持つ。大学の卒業制作で作った「ロボロボ」(97)が数多くの賞を受賞。海外の映画祭にも正式出品される。以降自主制作で「RED SLOT MACHINE」(99)を作り上げ、完成したビデオを各方面に配布。滝田和人プロデューサーに作品を認められ「緑玉紳士」の制作がスタートした。衝撃のデビュー作「緑玉紳士」は今年4月にいよいよ劇場公開される。
▲これがメインストリートのセットです。近くからみると、ディテールまでこだわっているのがわかります。カメラに写らないところまできちんと作ってあるんですね。
▲撮影用のDVカメラです。PD150。ソニー製です。フィルムのような質感の映像が作り出せます。
▲栗田さんのデザインするキャラクターには人形らしからぬ生きた表情があります。今にも動き出しそうな気がします。
▲このクモは親指に乗っかる程度の大きさです。クモの足は相当手先が器用でないと動かせないですよ。
▲顔の表情は何十パターンもありました。これらの顔を1コマごとに交換して表情に動きをつけていくのです。
▲こうやって作業するんですね。
栗田監督は僕と年が近く、世代的に共通点が多かったです。学生時代にお互い熱中した漫画「キン肉マン」や「ネクロスの要塞」という知る人ぞ知る玩具入りチョコ菓子の話題で色々と盛り上がりました。今度は映画のことだけじゃなく、音楽の話題とか、一緒に飲みながらゆっくり語り合いたいなぁと、そう思わせる人でした。
栗田さん、今回は快く取材に協力してくれて本当にありがとうございました!
--「緑玉紳士」のカメラワークは、まるで実写映画みたいに凝っていましたけど、何を見て勉強したのですか?
栗田『逆に言うと、そうしないとスピード感とか迫力のあるアクションを見せられなかったと思うんです。カメラの割り方は「ヒッチコック映画術」という本を見て勉強しました。それからヒッチコックのDVDを見て、気になるシーンをコマ送りで見たりしてましたね。「ヒッチコック映画術」はアメリカとかでよく映画の教科書になる本で、二回図書館で借りて読んだんですけど、この間の誕生日にやっと友人にプレゼントしてもらいました(笑)。映画のエッセンスが入っていて、すごく納得できる内容の本ですね。
ヒッチコックの「北北西に進路を取れ」とか見たら、話がつながってるようで、よく考えると結構めちゃくちゃなんですよね。かなりいい加減に作ってるんですけど、でも見ている方は全然そう思わないですよね。映画の世界に入って、次にどうなるのかと気を取られて最後まで見てしまうんですよ。「緑玉紳士」もそういうのを意識してます』
--調理室で牛の骨が出てくるシーンが一番好きです。骨なのにおいしそうなステーキになるところが最高に面白かったです。
栗田『骨はハリーハウゼンぽくやってみました。友達がハリーハウゼンを好きなんですよ。骨がステーキになるところは、絶対皆受けるんですよね。本人的には「WELCOME」の字が「WELCOW」になるところが気に入ってるんですけど、「WELCOW」よりもステーキの方が確実に受けるんですよね。
食べ物がおいしそうってのは、すごくよく言われます。食い物屋の息子としては嬉しいですよ。「注文の多い料理店」とか、小さいころ割と宮沢賢治の本が好きだったんで、オマージュ的にやってみたかったんです』
--ニック・パークの「ペンギンに気をつけろ!」に影響を受けたと聞きましたが、どういうところに影響を受けましたか。また、自分の作品のどういうところにそれが生かされていますか?
栗田『極端にいうと全部ですね。あれは理想形だったので、僕はニック・パークの背中しか見てなかったですね。他にもアニメーションは色々ありましたけど、他のことは全然考えず、ニック・パークよりも良い物を作りたいっていう一心でした。ニック・パークと僕の共通点は、お互いヒッチコックをお手本にしてるところですね』
--素朴な疑問ですが、撮影中は頭の中で何を考えてるんですか?
栗田『普通のアニメーターならしないのですが、僕は意外と音楽聴いたりとかしてます』
--音楽といえば、「緑玉紳士」は音楽がとても良かったです。ジャズを使ったり、ワタナベイビーさんの歌を使ったりしてましたね。
栗田『ジャズもワタナベイビーも、両方ともあんなにいいものがあがってくるとは思わなかったんで、そういう意味では恵まれていましたね。
グリンピース役の声は、始めっからワタナベイビーに決まっていたわけじゃなかったんですけど、もう決めなくちゃいけない段階になってきたときに、ふとワタナベイビーがいいんじゃないかと思ったら、もうそれ以外は頭の中で出てこなかったですね。・・・なんとなく鼻の形がそっくりですね』
--普段どういう音楽を聴かれるのですか?
栗田『聴く音楽は時期によってバラバラです。昔のロックとか、ビートルズだったらビートルズばっかり聴いていた時期があったり。ドアーズ、ポリス、ローリング・ストーンズとか、割とあの辺は好きですね。最近はキリンジばかり聴いてたりします』
--実写映画とアニメーション映画の違いは何だと思いますか?
栗田『その質問は意外ですね。セル画アニメとコマ撮りアニメの違いは何かという質問は結構多かったんですけど、実写とアニメの違いってのは初めてでした。その違いは、動いてくれるか動かすかです。自分が監督と俳優の両方の立場をやらないといけないところかな』
--最後の質問です。映画を作る上で、最も大切なことは何ですか?
栗田『僕はエンターテイメント映画を作りたかったんで、やっぱり評論家さんよりも一般のお客さんが見て「わあ面白い」と言ってもらえるのが一番嬉しいんで、そう言ってもらえるような作品を作るのが僕にとって一番大切なことですね。「金返せ」と言われるような映画を作るのが一番ダメなことです。さんざん子供のころSF映画を見てたんですけど、映画を見て裏切られる時って、すごく残念なんですよね。楽しみにしてみて、思っていたよりももっと面白かったと思わせるのが、僕が映画をやりたい動機といえば動機ですよね。テーマとか哲学とかは二の次になっちゃいます』
1975年大阪府高槻市生まれ。5歳のときから中3まで絵画教室に通う。レコード店、レンタルビデオ店などを営んでいた映画好きの父(現在は喫茶店経営)に連れられていった「スター・ウォーズ」を見て熱狂する。デザイン専門の高校、大学に進学。授業で切り紙アニメーションに興味を持つ。大学の卒業制作で作った「ロボロボ」(97)が数多くの賞を受賞。海外の映画祭にも正式出品される。以降自主制作で「RED SLOT MACHINE」(99)を作り上げ、完成したビデオを各方面に配布。滝田和人プロデューサーに作品を認められ「緑玉紳士」の制作がスタートした。衝撃のデビュー作「緑玉紳士」は今年4月にいよいよ劇場公開される。
▲これがメインストリートのセットです。近くからみると、ディテールまでこだわっているのがわかります。カメラに写らないところまできちんと作ってあるんですね。
▲撮影用のDVカメラです。PD150。ソニー製です。フィルムのような質感の映像が作り出せます。
▲栗田さんのデザインするキャラクターには人形らしからぬ生きた表情があります。今にも動き出しそうな気がします。
▲このクモは親指に乗っかる程度の大きさです。クモの足は相当手先が器用でないと動かせないですよ。
▲顔の表情は何十パターンもありました。これらの顔を1コマごとに交換して表情に動きをつけていくのです。
▲こうやって作業するんですね。
栗田監督は僕と年が近く、世代的に共通点が多かったです。学生時代にお互い熱中した漫画「キン肉マン」や「ネクロスの要塞」という知る人ぞ知る玩具入りチョコ菓子の話題で色々と盛り上がりました。今度は映画のことだけじゃなく、音楽の話題とか、一緒に飲みながらゆっくり語り合いたいなぁと、そう思わせる人でした。
栗田さん、今回は快く取材に協力してくれて本当にありがとうございました!