いかりや長介 (今週のスター)

日本人はドリフを見て育った
 「8時だヨ!全員集合」が、日本のテレビ史における最高のバラエティ番組であることは、誰しも認めているところである。ほとんどの日本人はこれを見てすくすくと成長したもんだ。PTAに俗悪番組と非難されたが、ドリフを見て育った人に悪人はいなかった。僕はこの番組から沢山の夢をいただいた。第三者の悪口で受けを取るような邪道なことはせず、ウンコのぬいぐるみや大きなタライを使ってドタバタを繰り広げる。これを子供が真似してどこに害があろうか。こんなにゲラゲラ大笑いして見られる健康的な番組は、むしろ観賞を奨励すべきものであった。
 テレビを見ながら「笑う」という経験は、僕もドリフが最初だった。テレビに向かって思わず「後ろだよ!後ろ!」と叫んだこともある。「だめだこりゃ」は僕らの口癖になっていた。子供のころに見たアニメ番組の思い出はほとんど消えてしまったが、ドリフの思い出は今も色濃く脳裏に焼き付いたままだ。僕の祖父は気むずかし屋で、いつもムッとしていたが、そんな祖父がドリフを見て大笑いするのを見るのは嬉しかったし、僕の幼き思い出である。
 「全員集合」がすごいのは、メンバー5人の息。まさにぴったりである。特にいかりやが他の4人のメンバーと対立するギャグは絶品だった。僕の一番のお気に入りは教室コント。いかりやは先生役で、毎度毎度うまいタイミングで威勢よく机に頭をぶつけてくれたものだ。生放送だった事実は、子供のころは意識していなかったが、今思えば、とんでもない偉業だった。アドリブなしの完璧な段取り。これはいかりやの統率力の賜物である。
 この年になって、先日発売したDVDボックスを見て、懐かしさにふけりながらも、ドリフは本当はいかりやのワンマン・ショーであったことに気づいた。どのコントでもストーリーの主導権を握るのはいかりやであり、セリフの量も「決め」もいかりやが断トツである。志村けんの一見独壇場とも思える一人芝居も、そばにいかりやがいてこそ意味があった。「8時だヨ!全員集合」の成功は、いかりや無しには決してあり得なかっただろう。
 番組が終了したときはショックだったが、メンバーは解散せず、先日まで元気に活動を続けていた。いかりやだけは映画でも活躍。黒澤明の「夢」にも出た。日本アカデミー賞の助演男優賞を受賞した「踊る大捜査線」で見せた渋い演技は、ひょうきん族で育った若者たちをも振り向かせた。テレビの某ドキュメンタリー番組のナレーションを務めたこともあるが、そのユーモラスな語り口は、いかりやが誰にも真似できない個性の持ち主であることを十分認識させるだけの貫禄があった。
 晩年は多方面から出演依頼が舞い込んできた。引き受けた仕事の中で、僅か数秒の演技にして印象的だったのは、ビールのテレビCMで、いかりやはグループ時代に演奏していたベースを披露(僕らにとっては初めて見る一面)。老人のダンディズムを匂わせて、新境地を開拓したばかりであった。
今こそ観たい長さんの映画一覧
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「ザ・ドリフターズの極楽はどこだ」
「ザ・ドリフターズのカモだ!!御用だ!!」
「正義だ!味方だ!全員集合!!」
これらの作品は「男はつらいよ」シリーズと同時上映された。

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