あの頃ペニー・レインと (DVD/ガイド)

映画監督になっても根はロック・マニア。
趣味人の心は、万人の心をも動かす。
 「あの頃ペニー・レインと」、素晴らしい邦題である。ビートルズの曲名に同じ「ペニー・レイン」という単語に敏感に反応する僕は「こりゃ絶対ロック映画に違いない」と直感したが、やはりそうだった。
 監督・脚本のキャメロン・クロウは、16歳で「ローリング・ストーン誌」のロック評論家になった。つまりは彼は物書きの気持ちが分かるわけだ。僕は彼のことを第二のフランソワ・トリュフォーと思っている。トリュフォーは映画、クロウはロックを愛した。トリュフォーもクロウも、映画の作り手としてだけでなく、物書きとしても尊敬に値する男である。
 いつしか僕はクロウのことを「ロックの脚本家」というあだ名で呼ぶようになった。ブルース・スプリングスティーンの歌を使った「ザ・エージェント」も、ポール・マッカートニーの歌を使った「バニラ・スカイ」も、バックミュージックはロックだらけだった。
 「あの頃ペニー・レインと」はロック三昧。ロック・マニアの僕は、最初から最後までニコニコしながら見させてもらった。僕はロックのことを語り出すときりがないので、あまり語りたくはないのだが、それでも劇中使用されている曲がどれも僕のお気に入りのレコードばかりだったことと、セリフの中に盛り込まれた固有名詞の選び方にもかなり気合いが入っていたので、悪いけど僕もロックのことについて書かずにはいられません!
 今回は、飛行機事故ではかなく散っていったレーナード・スキナードの他、サイモン&ガーファンクルの「アメリカ」やビーチ・ボーイズの「フィール・フロウ」など、ロックの名曲の数々が絶妙のタイミングで流れる。ツアーバスの中でみんながエルトン・ジョンを合唱するところは気持ちいいのなんのって。主人公がフーの「トミー」を聴いてロックに開眼するシーンからは、クロウのロックに対する深い愛情のようなものを映像の中に感じ取ることができる。かつて、僕がこういう形で作り手が抱く趣味への愛情を映画の中から感じとったのは、トリュフォーの「アメリカの夜」で主人公が映画のスチルを盗むシーン以来である。
 トリュフォーもクロウも、自分の趣味の世界に走っておきながらも、それがきちんと映画として成り立っているから決して文句は言わせない。おそらくクロウにとっては、ロックそのものが青春だったのだろうから、だからこそ、この映画には彼なりの青春の姿が詰まっている。青春ならばロックを知らなくとも誰にでも理解できる。両者とも親に従わない子供を描いてうまい。
 しかしトリュフォーと違い、クロウはロックを入れすぎている嫌いがある。トリュフォーはサイレント映画を意識した「野性の少年」を見てもわかるとおり、自分の映画趣味をいくらでも映画の中に詰め込むことができたが、クロウは時にこれが凶と出る。元来ロックと映画はあまり愛称がよくないはずなので、いくらクロウの選曲センスが良くても土台無理がある。「バニラ・スカイ」でビーチ・ボーイズの「グッド・ヴァイブレーション」を使ったのはいくらなんでも狙いすぎだった。今後もクロウは懲りずにロックを使い続けていくのだろうか。それはそれで彼の個性だから、否定はしないのだが。
 映画の中にはスティルウォーターという架空のバンドが登場するが、このバンドは彼が出会ってきたバンドのすべての象徴とも言ってよいかもしれない。物書きと作り手、この関係は、友達か天敵か? これは、ロックに限らず、ショウビズすべて、人生すべてに共通することであろう。物書きが抱いている本心と、作り手が抱いている本心の、そのエゴの描き方など、なかなか手厳しいものがあり、率直なセリフとなってあらわれるところでは、僕も映画ライターのはしくれとして、人間として、なかなかギクッとくるものもあり、興味深くみさせてもらった。ラストもよくできた展開で、味があって良い。少年のライター魂には僕もカツをもらいました。
 蛇足だが、この主人公はクロウの少年時代がモデルになっているようだ。スティルウォーターはオールマン・ブラザーズ・バンドがそのモデルということらしいが、ストーリーはイエスとの出会いが基になっているということも告白している。クロウは1973年、15歳のときに、アメリカをバスでツアー中だったイエスに接触し、ロック評論家になる道を切り開いたという。主人公がスティルウォーターと初めて接触するシーンのところでは、イエスの「ラウンドアバウト」と「アイヴ・シーン・オール・グッド・ピープル」の2曲が使われていることに注目。



「あの頃ペニー・レインと」
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2000円
ディスク枚数 1枚

Disc1:本編のみ

映像再生品質:A-
音声再生品質:A
特典充実度:-
コストパフォーマンス:B+

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