アンナ・マニャーニ (今週のスター)

 彼女が亡くなってから30年も経つので、あまり覚えてる人はいないと思うけど、彼女の葬儀は「ローマ法王なみの葬儀だった」と記録されている。葬儀の映像があれば見てみたいものである。とにかく彼女はイタリアでは知らない人がいないと言われるほどの大女優だったのである。

 僕はイタリア女性が大好きだが、彼女はまさに僕の想像しているイタリア女性のイメージそのものだった。

 先週NHKで放送していたヴィスコンティの「ベリッシマ」(52)を見てみたが、いや驚いた。ほとんどのシーンがマニャーニの一人演技で、すごいパワーを感じた。とてもお友達にしたくない気性の激しいママ役だが、別にセクシーな役じゃないのに、44歳にして、なんだろうあの性的な魅力は。彼女は意外にもセックスシンボルであることがわかる。ヴィスコンティもそういう役を狙って演出しているように思える。長いスカートをはいていたけれど、明らかにO脚だと分かるが、そこが野性的な香りを匂わせるのである。もっとじっくり演技を観察してみると、真っ黒な髪の毛、柔らかそうな上腕など、ひきつけられるところが多すぎる! 1時間後、観客は彼女の虜になってることに気付くだろう。

 オーバーゼスチャー、ばかでかい声・・・。彼女の映画は、物語そのものよりも、彼女の存在そのものが一番の見どころになっているのではないだろうか。イタリア語の語感がこうも作品を引き立てるとは、驚きである。でも吹き替えではどうなるんだ?日本語であのはち切れんばかりのエネルギーを表現できるのか? そんな心配をしてしまうくらい、彼女のイタリア女性ぶりには押し倒されそうな思いになることだろう。僕はどことなくソフィア・ローレンの魅力に似ていると思ったが(イタリア人にしてみれば全然違うのだろうが)、おそらくこれはアメリカ人には出せないイタリア女性だけのユーモアなのだろう。

 ロッセリーニの「無防備都市」(45)は、彼女の出世作。イタリアン・ネオ・リアリズモの最高傑作とされる一本だが、これもまたマニャーニ抜きには語れない傑作である。目のくま、やつれた頬はメイクなのだろうか? この作品からすでに大声でユーモラスな演技をしているが、あの大きな声が悲劇的なシーンの感動をよりいっそう深める。マニャーニが射殺されるシーンの壮絶な映像のダイナミズムは、マニャーニの演技力があってのものである。

 フランスの巨匠ルノワールがイタリアで撮った映画「黄金の馬車」(53)にも主演し、ハリウッドでは「バラの刺青」(55)、「野生の息吹き」(58)、「サンタ・ヴィットリアの秘密」(69)などに出演。56年、イタリア女優としては初めてとなるオスカーを受け取った。

 今僕が最もハマってる人デス。日本では未公開の映画が多いけど、もっとビデオ化されないものかねえ。

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