アレック・ギネス (今週のスター)

 彼の紹介文はどれも安っぽすぎた

 僕は悲しいぞ。アレック・ギネスは偉大なイギリス映画のトップスターだったのに、今までどの本を見ても、彼の紹介文は安っぽいものばかりだった。「戦場にかける橋」、「スター・ウォーズ」、「アラビアのロレンス」などの大作に出演した人、それだけがギネスじゃないぞ。彼の真の実力はそれだけじゃないんだ! みんなはアレック・ギネスがどれだけ凄い性格俳優か知るまい。映画の本とか見ててもアレック・ギネスは名前すら載ってない場合がある。日本では認められていないのだろうか。

 彼のことを書くなら、大作映画の師デビッド・リーンのことも書かずにはおれない。イギリスの映画俳優がみんなそうであるように、彼も舞台出身であるが(ジョン・ギールグッドの劇団に所属していた)、彼を舞台から映画の世界に連れてきたのがデビッド・リーンである。ギネスはリーンの後のほとんどの作品に顔を出すことになる。

 リーンの名作「大いなる遺産」が彼の本格的な映画人生のスタートにあたる。32歳であった。この映画を見てみても、誰がアレック・ギネスかは、ちょっと気付かないかもしれない。なぜって、彼の顔は映画によって全然違うからである。こうも顔面変化ができる俳優も珍しい。「大いなる遺産」ではちょっとした若い青年の役だったが、続くディケンズ映画「オリヴァー・ツイスト」(製作:ロナルド・ニーム、監督:デビッド・リーン)では34歳にして背骨の曲がった老人の役である。とても同じ俳優だとは思えない。ギネスは「クリスマス・キャロル」(監督:ロナルド・ニーム)にも出演しており、ローレンス・オリビエがシェイクスピア映画なら、ギネスはディケンズ映画には描かせない人物だったようだ。


 どんな役でもやってみせたカメレオン

 脇役が多いが、しかし本当に色んな役をやったものだ。イギリス人だけでなく、有色人種も演じたりした。「クロムウェル」では国王チャールズ一世に扮し、「Kind Hearts and Coronets」ではなんと一人で8役をこなした。余りに芸が多彩なため、アメリカで彼がカメレオン役者と言われた所以もそこにある。
 一番得意としたのはコメディで、中でも「マダムと泥棒」はおかしな珍品である。彼のふざけた悪役顔が出てきただけでもこの映画は面白かった。そのふっとんだ演技は「名探偵登場」などにも生かされている。
 「The Lavender Hill Mob」、「The Mudlark」など、残念ながら、彼の代表作といえるもののほとんどは日本未公開である(イギリス映画だからかなぁ)。だから日本人はアレック・ギネスについて知らないことが多い。もっともっと評価されるべき名役者なのだが。

 1970年には「演技を芸術とした俳優」としてアカデミー特別賞を授与された。ちなみに、アカデミー賞のトロフィー「オスカー像」に一番似ている俳優はアレック・ギネスだといわれている。

オリジナルページを表示する