あがた森魚
あがた森魚

あがた森魚インタビュー

「神様が地球を作るような感じで、こんな小さな人でも世界を自分で作れるから」

映画『あがた森魚ややデラックス』が10月10日に公開された。『赤色エレジー』などで有名なロック歌手、あがた森魚のライブツアーに密着したドキュメンタリーである。この度、あがた森魚自身の映画観、ロック観について話を聞くことができた。

--映画化することになったいきさつは何だったのですか?

「とにかく60歳のツアーコンサートを盛大にやろうということで、それにはキャンピングカーがあって、撮影隊もいて、一緒にやったら楽しいだろうなと。ということで旅をしたんだけど、やっぱり、その成果としてこういう映像も撮れたらいいなと思っていたので、ああだこうだいってツアー始めたのがきっかけでした。僕が映画化したいと思って、できればドキュメンタリーにしたいなと。一石三鳥にも四鳥にもなるかなと。ツアーにこれなかった人にも見て貰えるし、最近の僕の活動のアピールにもなるかなと」

--映画を見てどう思いましたか?

「監督の竹藤さんが他人事だと思ってみてくださいと言ってたんだけど、確かにこれはあがた森魚なんだけど、誰かがあがた森魚を演じてるんじゃないのかなというぐらいに、本当に自分なのかなという感じはどこかにあるよね。あがた森魚はこういう存在だということを客観的に再認識した感じかな」

--映画の中にノーチラス号が何度か出て来ますが、あれは何だったのですか?

「キャンピングカーで回るのは初めてだったけど、あのキャンピングカーが俺にとってのノーチラス号だったんだね。全国クロスロードツアーって書いてあるんだけど、七つの海をあれで巡るみたいにね。ノーチラス号に対する自分の様々な思い入れがあるんだけど、あれは場所を定めぬネモ船長にとってのお城みたいなものだから。俺もギター一本の旅だけど、21世紀の陸を走るノーチラス号みたいなものだね」

--キャンピングカーのツアーで楽しかったことは?

「ドア・ツー・ドアだから、こんなぜいたくなことはないよね。毎日キャンピングカーで寝泊まりしたわけじゃないけれど、朝起きて、走って、会場について、またキャンピングカーにのって旅をして。僕は運転できないから我ながら情けないんだけど、とにかく、おのずと運転する人とかお手伝いする人とか撮影する人とか、サポートを一緒にやってくれるミュージシャンとか色々な人が出入りするわけだよね。それがなんか楽しかったなあ。・・・そうだな。今ふと質問されて気付いたんだけど、そういうことをしたかったんだな(ここであがたさんはビデオカメラを取り出し、喋っている自分をやおら撮り始めました)。キャンピングカーは寝泊まりできるし、一緒に来ればホテル代も交通費もかからないよって、みんなで遊べる場所が欲しかったんだな」

--お客さんとの触れ合いで楽しかったことは?

「もう毎晩だよね。『赤色エレジー』が聴けて良かったとか懐かしかったとか、あの頃よく聴いてましたとか、色々なことを言ってくれて、それだけでも嬉しいんだけど、ドキュメンタリーしようと思ってひとつひとつ取材のために全国歩いてたら大変じゃないですか。だけど、各地で色々なところでライブやってたら色々な人がやってきて、色々な人と出会いがあるじゃないですか。来た人とたまたま話ができるのはぜいたくなことだよね」

--作曲をしてて、曲はスムーズに出てくるものなのですか?

「理論的に作曲してるわけじゃないから。極論すると鼻歌だよね。嗜みの延長上の鼻歌のようなものでね。気分がいいときに知らないうちに歌ったりしてるよね。切なくてやり場のないときにはブルースを歌ったりするよね。歌って不思議なもので、知らないうちに自己主張というか、自分の表現になってるのかなと。そういうことじゃないの。もちろん、今度新曲を作らなくちゃいけないってことであらたまってピアノに向かって作るときもある。どっちもどっちだけど、もう一つよくあるのは、夢の中で歌ってるんだよ。夢の中にすごい曲があったとき、どう書き留めたらいいんだろうって。明け方、まだ意識があるんだよね。それをすぐノートにとるか、録音するか。朝起きて高々30秒か1分のうちにすーっと消えていっちゃうけど、時々4小節とか残ってる尻尾のかけらから作ることがある」

--最初に音楽に興味をもったきっかけは何だったのですか?

「皆そうだと思うけど、流行歌とか巷で流れてて興味はないわけじゃないよね。中学生のときはポップスが好きで、結構ミーハーしてたんだけども、高校2年のときにラジオでボブ・ディランの『ライク・ア・ローリング・ストーン』を聴いて、俺もこういう歌を作る人になりたいなと思ったのがスタートです。まさにぶっとんだよね。あれは聴いたことないタイプの歌だったね。当時ポップスは3分だったのに『ライク・ア・ローリング・ストーン』はその倍の6分あった。うねるようなブルースでね。これ聴いたとき何なんだろうと思って。黒人のじいさんが歌ってるような感じでね。それが次の週もラジオでかかって、もうガーンって刻まれたよね。でも当時はボブ・ディランといっても顔も知らなくて、調べようがないわけだ。だからレコード屋に行って調べたりとかしてたね」

--今まで聴いたアルバムの中で好きなアルバムは?

「アルバムとなると難しいな。まあ色々あるよな。うーん、ボブ・ディランの『ブロンド・オン・ブロンド』という歴史的なアルバムがあるんだけど、やっぱりこれかな。非常にありきたりだけど、ビートルズの『サージェント・ペパー』も。この2枚によってロックの歴史は大きなステップを超えて行ったという感じがするよね」

--ご自身のジャンルは何だと思いますか?

「これ一番難しい質問だよね。ロックだねと言われたらそうともいえるし。あまりフォークとは思わないけども。タンゴともいえるし、パンクともいえるし、平たくいうとノンジャンルだよね」

--ロックとは何だと思いますか?

「そうだよね。ロックとは何だろう。ロックとは・・・。安直な言い方だけども、やっぱり自分への認識であり、社会への問い掛けっていうかね。この間、海部宣男さんという国立天文台の人と対談したんだけども、海部さんに、なんで天文学やるのか、といったら、宇宙の探求とフィードバックするところの自分自身の探求という往復運動といってて、そうだねと思った」

--俳優とナレーターの仕事について聞かせて下さい。

「ナレーションというのはある程度言うとおりにやればいい。俳優というのはどこかで自分を出さなきゃいけない。自分なりにかなりの創作性をもって演じないと演じることになんないのかな。ある程度研究しないとさ。なぜ自分がこの役を演じているのか、こいつは何者であるかとか、これはどういう時代であったとか、そういうところまで学習しないと始まらないところはあるから」

--映画監督もやられていますね。

「映画楽しいなと思ったからだよね。映画撮りたいと思ったから。大袈裟にいうと、神様が地球を作るような感じで、こんな小さな人でも世界を自分で作れるから。そう思ったからやりたくなったんじゃないかな」

--歌で大事なことは何だと思いますか?

「謙虚に自分の素朴な気持ちをちゃんと相手に伝えることかな。僕は「あなたのために歌ってます」ということをよく言うんだけど、「あなた」というのは普通一人しかいない。5万人いようが、30人いようが、ひとりひとりの「あなた」に歌としてうまく伝えられるかだよね」

(インタビュアー:澤田英繁)

場面写真
(C)Transformer,Inc.
『あがた森魚ややデラックス』は10月10日シアターN渋谷にてモーニング&レイトショー。
(配給:トランスフォーマー)