小池栄子と坂井真紀

第18回日本映画批評家大賞開催
小池栄子と坂井真紀が演技賞を受賞
『ピラニア』『ウルトラマン』からも

2009年4月23日(木)、品川プリンスホテルにて、第18回日本映画批評家大賞が開催された。

映画の情報サイト、週刊シネママガジンが産声をあげて早9年。今回初めてウチにもお呼びがかかったので、大喜びで取材してきた。感想は、うむ、いい映画賞だった。大満足である。会場の空調があまりきいてなくて、むしむししていたのが唯一の不満点だったが、授賞式そのものは楽しい内容だった。いや、こんなに面白い賞が日本にあったとは驚きである。当サイトでは初取材ということもあるので、この賞を知らない読者のために、まずこれがどんな賞なのか説明しておく。

アメリカには全米映画批評家大賞、ニューヨーク映画批評家大賞、ロサンゼルス映画批評家大賞など、映画批評家が選出する映画賞があり、いずれも権威が高く、よく知られている。時にはミニシアター系の映画が作品賞を受賞するなど、アカデミー賞やゴールデングローブ賞とは違った傾向が見られるところもコアな映画ファンに定評があるゆえんである。これに倣って、「日本にも日本映画批評家大賞を」と訴えたのがかの故・水野晴郎氏で、水野氏が創設してから今年でこの賞は18回目を迎える。

審査員はすべてプロの映画批評家である。「純粋に映画批評家だけが集まって選ぶ賞」ということで、スポンサーや会社などに流されることなく、本音で良いと思った作品を選ぶところにポリシーがあり、毎回「そうきたか」という作品が受賞する。過去の受賞作品には『博士の愛した数式』、『スウィングガールズ』などがある。

他の映画賞の場合は作品賞と監督賞はほぼ同作品から選ばれるものだが、日本映画批評家大賞では審査委員が少数で意見がわかれるせいなのか、作品賞と監督賞が95%の確率で別作品から選ばれているのが特徴的で、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞もほぼ違う作品から選ばれる。過去『シベリア超特急』のシリーズが何度か受賞していることからも審査員の趣味的な意味合いが感じられる賞と言えなくもない。今年はF級映画監督の河崎実が特別敢闘賞を受賞するなど、まったく予期せぬ一大事もあった。この賞に選ばれるのは、ある意味日本アカデミー賞を取るよりも難しいことかもしれないわけで、いかに異端的でユニークな映画賞であるかわかっていただけるだろう。

とはいえ、授賞式には、ちゃんとベテランや人気スターといえる受賞者たちが出席するので、ラズベリー賞のように勝手にやりましたという賞とは違い、関係者の間でも権威のある賞として認められているのは間違いない。

賞には、かつて映画批評家大賞に貢献した映画批評家の名前がつけられている。新人賞(女優)には、映画ファンなら説明はいらない小森和子の名前が、新人賞(男優)には、ハンサムなスターが大好きだったという南俊子の名前が、国際活動賞には、国際的に映画を紹介した田山力哉の名前が、そして特別功労賞には、映画の生き字引として活躍した増淵健の名前がつけられている。配布されるパンフレットもなかなかのものである。人物略歴や作品の解説が書かれた他映画賞のパンフレットとは一線を画す内容で、読み物として楽しめる映画批評の小冊子になっている。

週刊シネママガジンも開設当初は、ひとつの映画批評サイトとして始まっており、いまだに私は報道側というよりは、むしろ批評家側に立つサイトだと思っているくらいだが、私は僭越ながら自称映画批評家として、これほどの映画賞に参加できたことを大変光栄に思っているし、この映画賞のように異端的なサイトを目指す指標を示された思いである。

今年は水野氏が亡くなってから初めての授賞式になるが、式には松田聖子、小池栄子ら人気スターが出席。そして羽仁進、小沢昭一らベテラン勢の顔ぶれ。主演男優賞の東山紀之は来られなかったが、批評家のための賞とはいえ、なかなか金のかかった授賞式である。私も一映画ファンとして、マスコミ席からこの雰囲気を楽しませてもらったが、役者よりも羽仁進監督を見て喜んでしまう私はつくづく映画ファンなのだと思った。映画ファンなら、これに興奮しないわけがあるまい。

吉高由里子

新人賞は、吉高由里子とリリー・フランキー。吉高はたしかに納得。それまでも脇役ではちょこちょこ出ていたが、『蛇にピアス』の主演に大抜擢され、ショッキングな演技が高く評価された。2008年度、最もインパクトのあった若手女優だったといえるだろう。島俊光選考委員は、「一般には理解不能な行為を彼女の存在によって、あって当然と思わせる」と評価していた。普段は冗談をいう吉高だが、この日は至って真面目にスピーチしていた。

誰もが知っているリリー・フランキーを新人にしてしまうところは、いかにも日本映画批評家大賞らしいところ。ここ最近俳優としての活動は特筆すべきところが多く、『ぐるりのこと。』は各誌でも絶賛された作品だ。平山允選考委員は「飄々とした表情と、あたたかな息づかいを感じさせる自然体の演技で好演している」と評価していた。

助演女優賞は坂井真紀。今年の作品賞に輝く『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』での受賞。個人的に賞を受賞するのが初めてとなる坂井は「若松監督との日々は体育会系の厳しい部活動のようでした。監督の怒鳴り声は映画への情熱でした」と撮影の日々を振り返っていた。西村雄一郎選考委員は「3時間の中で一番壮絶なシーンは、坂井さんがお岩さんになるまで自分の顔を叩いたところ」と話していた。

助演男優賞は岸部一徳。名脇役としてのイメージが強い岸部だが、数え切れないほどの出演作がありながら、意外にも『GSワンダーランド』での受賞となった。この作品で選ぶところに日本映画批評家大賞のセンスが光る。岸部は「自分は何から始まったのかと考えると、GSというグループサウンズから始まっているので、この映画で賞をもらえるのは嬉しい」とスピーチしていた。GSの大スターが、当時のレコード会社の社長を演じることでこれ以上ないユーモアになっている。

主演女優賞は小池栄子。『接吻』での受賞である。平山選考委員は「数々のテレビドラマ、バラエティ番組では、快活な魅力をふりまいてきた彼女が女優としての潜在能力を遺憾なく発揮、見事に新境地を切り開いた」と絶賛していた。一度は断った役で得た賞である。授賞式後のインタビューでは記者から「これで大女優ですね」とおだてられて、「まだまだです。これはその第一歩ですから」と意気込みを見せていた。

監督賞は『おくりびと』で数々の映画賞に輝いた滝田洋二郎に贈られた。瓜生孝選考委員は、「『おくりびと』が今年の米映画界最高の栄誉に輝いた全地球を駆けめぐる生中継あの快挙こそ、熱狂させてくれた日はない。素晴らしい日本の技術が世界に認められ、映画は言葉を国を超えると、実感した。千の葬式があったら、千の風が、千のドラマがあるわけだけど、あれだけの独創と情感が日本人の優しさを清明に描き切ったのには、外国は度肝を抜かれたのだろう」とコメントしている。

作品賞は『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』。西村選考委員は「全部実名。正面から歴史を見据えている。監督の別荘があさま山荘に見立てられ、最後には本当に破壊される。どうしても撮らなければ、という作家の覚悟が迫ってくる希有の映画。人は自分が歴史のどの位置に立っているかを、時として確認する必要がある。これはそのための映画。昭和史の落とし前をつけてもらった」と評した。企画製作した若松孝二は「隠そうとしている歴史を曲げられてはいけない。今自分が撮らなければいけない。昭和という時代で最も重要な事件をもう一度検証しなければいけない。映画には時効がないので、今真実を残さなければいけない」と映画化の経緯について語ってくれた。

松田聖子

今年の審査委員特別賞は、『火垂るの墓』の松田聖子と、『明日への遺言』の藤田まことに贈られた。藤田は「きっちりギャラを決めておりませんでした。出来高払いで払ってやるぞということですので、今DVDが出ていますので、ぜひひとつお買い上げ下さい。それが私の儲けになりますから」といって会場の笑いを誘った。松田聖子は落ち着いた着物姿で登場。一般客が携帯電話を取り出して写真に収めようとする様子などもちらほら見られた。

この映画賞の特色ともいえるゴールデン・グローリー賞は、偉大な功績を残した映画人に与えられるもの。今年からは故・水野晴郎氏を称えて「ゴールデン・グローリー賞(水野晴郎賞)」となって新たにスタートした。今年の受賞者は、かつては日活のスーパースターでありプロデューサーに転向してジェームズ・キャメロンのデビュー作などを手がけた筑波久子、『釣りバカ日誌』で有名な久里千春、そして『ウルトラマン』の紅一点フジ隊員役・桜井浩子の3人。筑波は現在『ピラニア』の最新作を製作中だが、「日本とアメリカをつなぎたい」ということで授賞式の前日にアメリカから駆けつけたという。

最も栄誉あるダイヤモンド大賞の受賞者は、監督の羽仁進と俳優の小沢昭一。羽仁の選出理由として、日野康一選考委員は「劇映画では不可能と思われる題材に記録映画の手法で突き進み、人種年齢を問わず人間心理の内面を記録している」とコメント。ドキュメンタリーもドラマも同じ映画として正当に評価することに日野は批評家の意地を見せていた。

授賞式のトリを飾った小沢昭一は、80歳とは思えない軽快なステップで壇上に駆け上がり、絶妙のスピーチで会場を沸かせた。このスピーチは、まさしくトリにふさわしいこの日最高のスピーチであった。以下、彼のスピーチの引用をもってこのレポートを締めくくりたいと思う。

「化石俳優の小沢でございます。若いときと違いまして、半ボケ、いや3分の2ボケになってからいただいた賞は本当に嬉しいですね。抱きしめたいくらいです(といってトロフィーを抱きしめる)。長いこと映画に出させていただきました。一番ひどいときは3本ぐらいかけもちで働かさせていただきました。近頃お呼びが少なくなって来たんで、今日は映画関係者の方大勢おいででございますので、お忘れなく。久里千春さんとも共演しましたし、筑波久子さんを暴力団の役で強姦したりとか、色々やらせていただいたんでございますが、まだやってない役がひとつだけございましてね。ボケ老人の役をやってないですよ。今やったら相当いい線行けるんじゃないかと思ってますので、そういうご要望がございましたら、ぜひ当店に声をかけていただきますとありがたいです。今日はありがとうございます。筑波久子さんを抱くのと同じ以上に嬉しゅうございます。ついに80になりましたが、面白いのはこれからです。まだ筑波さんを強姦できますから」

授賞式の写真はこちら(撮影・澤田)
フォトセッション中の小池栄子と吉高由里子
新人賞 吉高由里子
新人賞 リリー・フランキー
助演女優賞 坂井真紀
助演男優賞 岸部一徳
主演女優賞 小池栄子
監督賞 滝田洋二郎
作品賞 『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』
審査委員特別賞 松田聖子
審査委員特別賞 藤田まこと
ゴールデン・グローリー賞 筑波久子
ゴールデン・グローリー賞 久里千春
ゴールデン・グローリー賞 桜井浩子
ダイヤモンド大賞 羽仁進監督
ダイヤモンド大賞 小沢昭一
『恋するトマト』大地康雄
特別敢闘賞 河崎実監督
日本映画批評家大賞代表 白井佳夫