長回し (フィルムロジック)


Lesson 13
長回し

 やたらとカットを短くして、パッパッパッと画面を切り替えてイメージの変化で観客を楽しませようとする映画作家がいっぱいいるのだが、むやみに編集すればいいわけではないということを知ってもらいたい。長いショットでも、「映画」を感じさせることはできるのだから。監督は別の言い方をすれば「演出家」である。「演出」とは画面内でどう見せるかどうかを指す言葉であり、「編集」とは違う。例えばミュージカルではダンスシーンで何も編集を加えないことがあるのだが、これは編集という行為がダンスの本来の良さを台無しにしてしまうからである。長回しに真の「演出」というものを見いだしてみるのも面白いかもしれないぞ。

「旅芸人の記録」
監督:テオ・アンゲロプロス
全体的に長目のショットが目立つギリシャの作品である。長目とはいっても、カメラはいつまでもじっとしているわけではなく、登場人物の動きをゆっくりと追いかけているので、意識しなければワンシーン・ワンカットということには気付くまい。接写では無理があるので、ほとんどのシーンはロングショットで描かれている。

「ワン・プラス・ワン」
監督:ジャン・リュック・ゴダール
音楽映像における長回し撮影。ローリング・ストーンズの最高傑作となった「悪魔を憐れむ歌」のリハーサル風景をワンショットで撮影。5人が黙々と演奏している様子をカメラは右に左にパンしたり、ドリー・ショットで捉え続ける。多重録音することで曲を創造するという60年代半ばから始まった新しい音楽芸術のスタイルを、ゴダールは記録し、音楽映画としては出色の映像に仕上げている。

「ある映画監督の生涯」
監督:新藤兼人
同作は溝口健二の関係者にインタビューしたドキュメンタリー映画である。インタビューする人とされる人の両方を切り返して見せるのではなく、インタビューされる人をじっと捉え続けたところが、溝口氏との人間関係を浮かび上がらせることを可能にした。とくに田中絹代にインタビューしているシーンは感動的といってよい。

「黒い罠」
監督:オーソン・ウェルズ
クレーンを使った撮影の極めつきである。鬼才オーソン・ウェルズならではのトラッキング・ショットを堪能することができる。とにかく凄い。この凄さは見てもらわなければわからないと思う。いったいどういう仕組みになってるんだと、ゾクゾクさせられる。このワンカットは、色々な映画監督に影響を与えることになる。

「シャイニング」
監督:スタンリー・キューブリック
 キューブリック作品のスムーズな移動撮影は毎回鑑賞者を楽しませてくれるが、中でも「シャイニング」にはゾクッとさせられただろう。三輪車ででかい邸内を走る少年の後ろ姿を黙々と捉えるキャメラ。ローアングルなので壁が高く見え、左右が狭く感じ、前方だけが異様に開けて、この距離感が観客に何か生理的怖さを与える。長回しであるため、このイメージが直に焼き付いて離れない。

「ロープ」
監督:アルフレッド・ヒッチコック
ヒッチコックにしてはあまり面白い作品とは言えなかったが、実験的な作品としては、ここまで興味深いものはあるまい。ヒッチコックはこの映画をワンカットで撮影した。ひとつの映画がたったのワンカットなのである。正確には何度もカットしているが、あたかもワンカットに見せている。夕暮れ時に撮影したのは、窓の外の空の色が変化していく様子を見せたかったからである。
 長回しは、カメラを固定するもよし、ドリーを使うもよし、ステディカムを使うもよし。滑らかな動きが必要ならばパンとズームの腕を磨くべし。

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