第14夜『TOKYO!』
3人の外国人監督が東京を独自の視点で描くオムニバス
ニューヨーク、パリ、ソウルを代表する3人の外国人監督が、東京について独自の視点で描くオムニバス『TOKYO!』が現在公開中だ。
オムニバスは数あれど、これほど興味を引く作品は滅多にお目にかかれない。外国人が東京について描くとなれば、それだけでも日本人としての興味は尽きないのに、その監督が『エターナル・サンシャイン』のミシェル・ゴンドリー、『ポンヌフの恋人』のレオス・カラックス、『殺人の追憶』のポン・ジュノなのだから、なおさら気になって来る。3人とも発表してきた作品数は少ないけれど、出す映画はすべて批評家受けしており、いずれも<鬼才>の異名を持つ監督である。この3人が一緒に映画を作るなど誰が想像できようか。
割とアクの強い監督たちなので、いったいどんな映画になるのかと僕も興味津々で見させてもらった。3作それぞれ、まったく作風が異なり、色とりどりだが、それぞれの作者の言わんとしているテーマについては理解するのに時間がかかるかもしれない。見終わった後、帰りの電車の中でじっくりテーマについて考えるのも一興だ。この考える時間こそが、本作の醍醐味とも言える。今思えば、僕は映画を見ているときよりも、何日かして映画の意味について考えているときの方が面白かった。第一印象では、間に合わせで作ったような作品だと思っていたのに、何日かすると無駄なシーンを忘れて、テーマだけが研ぎ澄まされて心に残ったからだろう。3作とも語りがいのあるテーマである。
わからなかったのはレオス・カラックスの「メルド」だ。渋谷・銀座と都心部の有名な場所で撮っているのに、これが一番東京ぽくない。場所がどこだろうと通用するストーリーだからだろう。最初のシーンで『ゴジラ』の主題にのせて怪人が銀座を徘徊するシーンがあり、ここはゲリラ撮影とあってなかなか面白かったのだが、それ以後のシーンは意味不明。
怪人の言葉をいちいちフランス語に訳してから日本語に訳すことのなんたるくどさ。監督に聞けば「言葉が通じなければ面白いと思った」と、あまり深い意味はないようだった。しかし、作品のいたるところに手りゅう弾や菊の花など、メタファーらしきものはたくさん置かれてあり、監督が意図していたのかはわからないが、あなどれない作品ではある。
面白かったのは、引きこもりについて描いたポン・ジュノの「シェイキング東京」。ほとんどのシーンが家の中で展開していくが、最も日本らしい内容になっている。お隣韓国の監督なので、感性が割と日本人に近いのかもしれない。監督自身が大ファンという蒼井優を起用していることからも作品に対する本気度がうかがえる。最も感心したのは映像のライティング。部屋の中に差し込む光が何とも言えない雰囲気。カメラアングルも完璧。撮影では照明設定に1時間待ちはざらにあったとのことで、3作の中でも突出した映像美を堪能できる。
一番長く語り明かせそうなのは、ゴンドリーの「インテリア・デザイン」。原作は3分で読める25コマ程度の漫画。漫画の舞台は日本ではなくニューヨークだ。ストーリーの筋は漫画も映画も同じだが、3分で読める漫画を30分の「日本映画」に仕立てあげるために、日本人同士の自由な会話シーンがたっぷりと追加されている。ゴンドリー監督は肩の力を抜いて自由に演出しているようで、日本人同士の会話もごく自然に描かれている。ゴンドリーが「日本の建物の隙間が気に入った。日本の建物は狭いから物を詰め込むことで面白い絵になった」と語っているように、都心部ではなく郊外の路地裏など、日本の町並みを第三者の視点からユーモラスにスケッチしていて、なかなか見応えがあった。主人公が社会の中で透明になるというテーマも、日本人が演じることで、より説得力のあるものになっている。
ちなみに、テーマ曲を担当するのはHASYMO(その意味はHuman Audio Sponge & Yellow Magic Orchestra)。高橋幸宏、細野晴臣、坂本龍一の3人による話題の新名義ユニットである。これも鬼才の3作品とは別にして注目しておきたい。(2008/8/19)
『TOKYO!』は8月16日(土)より、渋谷シネマライズ、シネ・リーブル池袋にて、世界先行ロードショー!(他全国順次公開)
(C)2008「TOKYO!」