ガブリエル・ベルとミシェル・ゴンドリー監督

『TOKYO!』ミシェル・ゴンドリー監督&
ガブリエル・ベル(原作・脚本)インタビュー

ニューヨーク、パリ、ソウルを代表する外国人監督が東京をテーマに見せるオムニバス『TOKYO!』。7月上旬ソウルから来日したポン・ジュノ監督、7月中旬パリから来日したレオス・カラックスに続いて、7月下旬ニューヨークからミシェル・ゴンドリー監督(『エターナル・サンシャイン』)が漫画家のガブリエル・ベル(共同脚本)を連れて来日。インタビューに応じてくれた。

僕がインタビュー席についたときには、すでにインタビュー漬けでお疲れだったゴンドリー監督。東京の印象や日本人に関する質問が多いことに辟易していたようで、事前に通訳が「日本に関する質問はしない方がいいですよ。ブチキレますから」と冗談交じりに警告してくれた。

「日本人はジャンケンで順番を決めるのかい?」

ミシェル・ゴンドリー監督

実はライター同士で、インタビューする順番を事前にジャンケンで決めていたのだが、それを見ていたゴンドリー監督は「日本ではいつも順番を決めるときはそうやってジャンケンをするのかい?」と不思議がっていた。普段滅多にジャンケンをしない僕も思わず「Yes.」と答えてしまったが、監督は「僕の新作『僕らのミライへ逆回転』ではジャンケンをするシーンがあるんだ」とノリノリで話をしてきた。乗せられた僕が「アメリカ映画ではジャンケンをするシーンは滅多に見られませんよね。僕の知る限りでは『トレマーズ』でしか見たことがありません」と返すと、監督は「?」マーク。どうやら『トレマーズ』を知らなかったようで、ちょっと意外でもある。

リハーサルを一切しないゴンドリー流の撮影法について話を聞くと、「もしリハーサルで良い絵ができたとしても、それ以上のものは本番で撮れないからさ。僕が最初にこうしろと決めつけたら、役者は言われたとおりにしかできなくなるから、役者の持っているアイデアが引き出せなくなるだろ」。言われてみれば納得のいく正論である。

何か影響を受けた作品はないかと聞いてみると、「それって日本映画のことかい?」と若干日本について神経質気味だったが、「日本に限らず何でも」とお願いすると、「何か見たかなあ」としばらく考えて、「そういえば照明のことで『マイ・ネーム・イズ・ジョー』を参考にしたかな」と語り始めた。

「絵作りではフリッツ・ラングの『M』を参考にした」

「映画ではないけど、漫画のフレーミングは参考にしてるよ。まあ映画を作るときには何かを参考にして作ろうとは思ってなくて、映画はストーリーとキャラクターから自然にできるものだと思っている。でもたまたま別のプロジェクトで、スタイル的に参考になるかなと黒澤映画を全部見たんだけど、もしかしたらその影響も何かしら反映されているかもしれないね。権力に対して声を出しても通らないという意味では『生きる』にも近い。それから、僕は絵作りではフリッツ・ラングの『M』を参考にしているんだ。必要なところだけ見せて生きたシーンを撮っている映画だ。ヒロコが車を探しに行くシーンの幾何学的な感じの絵作りでも参考になった」

会見では「何でも自由に撮影できて、40年代のハリウッド映画の監督になったような気分だった」と語っていたことだし、<鬼才>ゴンドリー監督は意外と古典派なのかもしれない。まさかフリッツ・ラングについて語り出すとは思わなかったので、フリッツ・ラング・ファンの僕としては嬉しい限りである。黒澤明の話題も出たが、聞けばこの映画で加瀬亮が演じていたアキラの名前は黒澤明の名前から来ているとのこと。「日本人の名前は他に知らないし、アキラは映画作家志望の青年という設定だからね。それからヒロコという名前はガブリエルのルームメイトの名前なんだ」

「ヒロコの社会的な居心地の悪さにはシンパシーを感じる」

ガブリエル・ベル

「ヒロコのように自分の存在について苦しむことはあったか」と質問すると、ガブリエル・ベルは「私の場合は、自分の存在に疑問に思ったら、マンガを描けば良かったの。マンガを描くことに集中すれば、存在に苦しむことはないわ。でも誰しもある程度は社会の中で透明になった気になることはあると思うわ」と語り、監督も「僕は常に物を作っていたし、周りの人に背中を押してもらっていたから、自分が透明な存在だと思うことはないんだけど、ヒロコが感じていた社会的な居心地の悪さについてはシンパシーを感じることはある」と同意した。

インタビューを通じて僕が一番印象に残ったのは、ゴンドリー監督がまるで子供みたいにお茶目な性格だったこと。インタビュー中もテーブルに置いていたICレコーダーを電動カミソリに見立てて髭を剃るふりをして笑わせてくれたし、写真撮影のときは、こちらから何も言わなくても色々とおどけてくれた。それは映画『TOKYO!』の中の加瀬亮にそっくりでもあった。(写真・構成:澤田)

TOKYO!』は8月16日(土)より、渋谷シネマライズ、シネ・リーブル池袋にて、世界先行ロードショー!(他全国順次公開)