『ダークナイト』主演はクリスチャン・ベール

第13夜『ダークナイト』

アメコミ物、シリーズ物とは思えないエポックメイキング大作

 いよいよ8月9日からクリストファー・ノーラン監督の『バットマン』シリーズ待望の2作目、『ダークナイト』が公開される。興行面では全米オープニング歴代1位。批評家の評価も型破りに高く、文字どおり今年一番の話題作といえる。

 これを初めて鑑賞したときには僕も感動のあまり、映画が終わってもしばらくその場から動けなかった。これほどぐぐっと心をつき動かされた映画を見たのは久しぶりである。前作とはかなり内容が違っていて、映像、音響、ストーリー、出演者の演技、すべてにおいて、今までに見たことがなかった全く新しい娯楽映画になっている。そしてクリスチャン・ベール扮するバットマンが「暗黒の騎士」として生きていく生き様が無茶苦茶しびれる!

 ノーラン監督の映画は、1回目よりも2回見た時の方が面白いのが特徴だ。『バットマン ビギンズ』は1回目もかなり楽しめたが、2回目はそれ以上だった。3回目は2回目よりもさらに研ぎ澄まされてもっともっと面白いものに見えた。見れば見るほど深みが増し、4回目ではもうこの興奮を抑えきれなくなった。ノーラン監督自身も『メメント』のインタビューで、自分の映画について「何度見ても楽しめる映画を作ることを心掛けている」と話していて、僕はその一言でノーラン監督の大ファンになった。『ダークナイト』も同様に何度でも見られる。ジャパンプレミアに来ていたお客さんもやはり「他の映画を見るよりも何度でも繰り返し『ダークナイト』を見たい」と、僕と同じようなことを言っていた。たしかにこれを見た後はしばらく他に何も見たくなくなってしまう。

『ダークナイト』ギミック沢山

 ノーラン監督は「前作と同じことは繰り返さない」と意欲的に新しいことに取り組んでいる。『ダークナイト』の最大の挑戦はIMAXカメラを使って撮影したことだった。冒頭の6分間を含め、6つのシーケンスがIMAXカメラで撮影されている。それは35mmで撮影したものをIMAX用に引き伸ばしたものではない(ちなみに『バットマン ビギンズ』はIMAX用に引き伸ばしたフィルムが日本では品川IMAXシアターで上映された)。実際にIMAXカメラを使って撮影された長編映画は『ダークナイト』が初めてである。IMAXのカメラは大きくて重たいため、必要となる機材も普通のものとはまるきり異なるし、従来の撮影方法が一切通用しない。製作者にとってはそれは大きな挑戦だった。ノーラン監督の妻であり共同製作を務めるエマ・トーマスは「エベレストでも海底でも宇宙空間でもIMAXカメラを使った人がいるのだから、私たちもシカゴの街でIMAXカメラを扱えるはず」と言ってスタッフを奮い立たせたらしい。ノーラン監督にとっても、砂漠で70mmカメラを使いこなした『アラビアのロレンス』の名匠デヴィッド・リーンを打倒するくらいの意気込みだった。「IMAXカメラを動かすこと」そのものがこの映画でのひとつの大きな目的でもあったのだ。

 完成されたその映像はまさしくエポックメイキング。従来の35mmフィルムでは味わえない圧倒的な臨場感とみずみずしさ。ノーラン監督は「とにかくずっとシャープなんだ。コントラストも明確で、彩度もくっきり。アクションシーンはまるでスクリーンから飛び出してきそうな迫力を感じるはずだ」と胸を張る。とくにカーチェイスシーンは驚くばかり。全長12メートルの大型トレーラーがストリートの真ん中で弧を描いてひっくり返るなど、神業ともいえる大掛かりな見せ場も多い。ビル爆破シーンなども、CGに頼らず本物を使って撮影しているからその迫力が違う。

『ダークナイト』ヒース・レジャー扮するジョーカー

 ドラマ性にも一切妥協を許していない。これがここまで評価が高いのもドラマとしてしっかり作り込まれているからだろう。単に善と悪の対決だけでは片付けられないショッキングで奥深いストーリーになっている。急死し、この作品が遺作となったヒース・レジャー扮するジョーカーの悪役ぶりも尋常ではない。無秩序の象徴ともいえるジョーカーには一切常識が通用しない。金が目当てではなく、人間が堕落し、世界が崩れて行く様を見て嘲笑う史上最凶の悪役である。恐れを知らぬこの悪にバットマンがどう戦って行くのかが見もので、ゴッサム・シティの市民全体を通じて揺れ動く人間の善悪の心が壮大なるスペクタクルの中に証明される。(2008/8/2)

ダークナイト』は8月9日(土)、丸の内プラゼール他<夏休み>全国ロードショー!!