走るシーン (フィルムロジック)


Lesson 9
走るシーン

 主人公が走っているシーン。何かこみ上げてくるものがある。なぜ走っているだけのシーンなのにこれほどまでに人の心を動かすのだろうか。そういえば「炎のランナー」「フォレスト・ガンプ/一期一会」などアカデミー賞でも走っていることの魅力のある作品がいくつか受賞していた。
 今回はこの走りの映像の魔力について徹底解明しよう。

 僕なりに走ることの意味について考えてみた。
  (1)幸せだから元気いっぱい走る
  (2)希望に向かって精一杯走る
  (3)愛のために思わず走る
  (4)社会から抜け出すためにひたすら走る
  (5)危険を感じて必死で走る
  (6)その他
 とはいっても、この分類は曖昧なので、あくまで一例であるが。

 では、次に僕の大好きな走りのシーンを取り上げてみた。

「トニ」
監督:ジャン・ルノワール 撮影:クロード・ルノワール
 おそらくフランソワ・トリュフォーにも影響を与えていると思われる感動的トラッキング・ショット。女が人を殺し、彼女を想う男は警官の前で「俺が殺した」と嘘を付く。まんまと警官から逃げ出した男はひたすら走る。この映像がすこぶる巧い。走っている間は台詞もなく、映像だけで見せる。台詞がないからこそ、この走っている姿に感情移入できるのだ。

「ネバーエンディング・ストーリー」
監督:ウォルフガング・ペーターゼン 出演:ノア・ハザウェイ
 子供の頃、アトレーユの走っているときの顔に思い切り感動した覚えが・・・。かっこいいって思った。第1の門は、そこをこえようとすればスフィンクスにたちまち焼き殺されてしまう。勇者アトレーユはその門に果敢にも挑む。放たれる光線。アトレーユは思い切り走る。応援するバスチアン。見ているこっちもドキドキしながら握り拳で思わず声援が出る。アトレーユが少年だからこそ、この映画にはロマンがある。

「サーカス」
監督・出演:チャールズ・チャップリン 撮影:ローランド・トザロー
 腹が痛くなるほど笑った映画。何より派手なアクションに注目。「サーカス」ではチャップリン走る走る。いっぱい走るシーンを見せてくれてダイナミックな内容だ。左写真は洒落たシチュエーション・ギャグもつまった最も有名な走り。チャップリンと泥棒が気が付いたら一緒に走ってたというおかしさ。チャップリンの場合、ギャグを見せる前にちゃんと動機があるし、状況が二重三重に連なっているので、心の底から笑える。

「突然炎のごとく」
監督:フランソワ・トリュフォー 撮影:ラウール・クタール
 「大人は判ってくれない」のラストシーンも素晴らしい走るシーンだが、「突然炎のごとく」のこの走りのシーンもいい。他の走りのシーンとは見せ方が違って、興味深い。男二人と競走するジャンヌ・モローの横顔の表情をクロースアップで捉えているのだが、これが実に映画的で、上手い。トリュフォーの映画は、映像に息吹がある。

「素晴らしき哉、人生!」
監督:フランク・キャプラ 出演:ジェームズ・スチュアート
 希望を取り戻した主人公が大声で町のみんなに「メリー・クリスマス!」と幸せいっぱい声をかけてまわる。何度見てもこのシーンはじーんと来る。生きていることの素晴らしさを謳った最高の走りだ。ほんとハッピーな感動に満ちた映画である。最近の映画に失われているものはこれなのかもしれない。その意味を考慮すれば、本作は古典中の古典だね。何か映画を薦めろと言われたらば、僕は迷わずこれを推す。

「クレイマー、クレイマー」
監督:ロバート・ベントン 出演:ダスティン・ホフマン
 ダスティン・ホフマンが走れば走るほど泣けてくるシーン。ジャングルジムから落っこちた息子を抱きかかえて、病院まで走る走る。信号も無視して車に迷惑かけながらもとにかく走る。途中何度も息子に声をかけて安心させようとする優しいパパの姿に思わず涙がホロリ。父と子の親子愛を描いた映画では、これがナンバー1でしょう。

「ロッキー」
監督:ジョン・G・アヴィルドセン 出演:シルベスター・スタローン
 泣く。ラストの「エイドリアーン!」も最高にいいけど、僕はこの走るシーンが一番好き。このときのバックで流れる音楽がまたかっこいい。早朝ランニングしてるときに、よくロッキーの真似してあの音楽歌いながら思い切り走ったっけなー。このシーンは、突然ロッキーがスピードアップして精一杯走っていくところがいい。そしてゴールに着いて一人このポーズ。これが映画だ!

「北北西に進路を取れ」
監督:アルフレッド・ヒッチコック 撮影:ロバート・バークス
 ヒッチコックは恐怖映画の神様である。「北北西に進路を取れ」は、スピーディに次々と見せ場が展開するヒッチ先生の代表作。この映画の中で一番有名な場面が、何もない土地で飛行機に襲われるシーン。何もないから逃げようがない。でも逃げるしかない。ケーリー・グラントはわけがわからぬまま、走る。カットといい間といい絶妙で、実に作り方が上手いシーンだ。
 走るシーンは自主映画でもよく見かける。これがありがちだけど、それでもやっぱり感動は大きいんだよね。



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