『TOKYO!』レオス・カラックス監督インタビュー
3人の外国人監督による日本を題材にした3本の短編オムニバス映画『TOKYO!』の公開が近づき、監督の一人、レオス・カラックスが来日した。『TOKYO!』の中の一編『メルド』はカラックスにとって実に9年ぶりの新作となる。
某日、都内ホテルの一室にて、ごく少数の媒体だけで囲み取材が行われた。シネマガも参加し、いくつか質問をすることができた。監督は大変デリケートな人で、写真撮影はいっさいNG。オフィシャルカメラマンも真正面からは無理ということで横から謙虚に撮影を行った。取材中監督は煙草を手放すことがなく、1本終わればまた次の1本に火をつけた。質問者の顔を見ることもなく、笑うこともなく、うつむいたまま小さな声でささやくように質問に答えるその姿はフランスの鬼才という表現にふさわしいものであった。
--『ゴジラ』をモチーフに選んだ理由は?
『ゴジラ』の最初の作品を見たのは私がシナリオを書いてからだ。すでに東京の下水から現れ出て東京を攻撃する創造物のアイデアはあったが、怖いモンスターという意味では『ゴジラ』の影響を受けている。私の3歳の娘が『ゴジラ』が大好きで、映画を作る前に私も娘と一緒に見たが、音と音楽がいいと思った。映画はファルス(笑劇)のようなものだから笑いをとるために『ゴジラ』の音楽を使うことにした。
--東京が他者に対して排他的な都市であるかのように描かれているが、これは監督の持つ東京のイメージなのか?
この映画では東京に特化して語っている部分はそんなにはないと思う。この映画のテーマ自体が自分と他者。背景はどこでもありえる。
--怪人はなぜ菊を食べるのか?
私はシナリオを先に書き、その後で日本の要素を肉付けしていった。地下道で見つかったものは南京大虐殺の時代のものを想定しているし、日本には死刑もあるので死刑についても描いている。これはファルスだから、日本の紋切り型のシンボルのいくつかがシナリオのインスピレーションになっている。それは菊であったり、マスクであったり、雨傘であったりする。
--死刑のシーンは大島渚監督の『絞死刑』をヒントにしているのか?
この映画はリアリスティックに描いているわけではないが、死刑のシーンを描く際、どうしてもそれがどういう場所でどういうふうに執り行われるのかとを調べる必要があって、大島渚監督の『絞死刑』を参考にした。私自身死刑というものに興味があり、今も日本では死刑があることが信じられないので、それを不条理に描くようにした。死刑のシーンは水槽の中にいる人間を見ているかのように、それはまるでフセイン大統領を死刑にしたとき携帯電話で人が撮っているような感じを出そうと心がけた。
--怪人はどうしておかしな言葉をしゃべるのか?
下水から出てくる怪人を想像したときに、非常に原始的な、ほとんど消えかかっている文明の人を想定した。この映画は人との関係をテーマにしているので、世界で2人か3人しか同じ言語を話す人がいない、文明や文化が違う人たちとの関係を描くと面白くなると思った。
--『メルド(クソ)』というタイトルにした理由は?
(日本語で)「クソ」。私の好きな言葉だ。この映画は子供へ退化していく今の私たちの時代を描いた作品で、怪人は私たちの子供のような存在だ。子供はすぐに「うんこ」と言うし、子供はこの言葉が好きだからその意味もあって、すぐにこのタイトルを思いついた。また、あるとき「クソ」を漢字で書いてもらったら、その形が気に入ったので「糞」という漢字も映画の中で大きく使うことにした。
--緑色を基調にしているのにはどういう意味があったのか?
緑は実は自分の一番好きな色だということに気づいた。それまで赤・青・黄は描いたことがあったがまだ緑を描いたことがなくて、映像にすると綺麗な緑を出すのは難しいので今回は試してみたくなった。
--9年間新作を発表しなかったことについては?
私は自分を映画作家だとは思っていない。時々人生の中で映画を作っている人と考えている。映画を作っていなくても平気でいられるし、旅をするとか、本を読むとか、恋をするとか、病気をするとか、何か書き物をするとか、普通の過ごし方をする。私は映画を作る度に自分に失望してしまうので、そこから立ち直る期間も必要だ。20代で3本、30代で1本、40代で短編1本なので、だんだん映画を作るのが間遠になってきているけどね。
『TOKYO!』は8月16日(土)より、渋谷シネマライズ、シネ・リーブル池袋にて、世界先行ロードショー!(他全国順次公開)