マーク・オズボーン監督

デジタルハリウッド大学『カンフー・パンダ』
マーク・オズボーン監督に学ぶ映画製作講義

7月15日(火)、秋葉原のデジタルハリウッド大学にて、『カンフー・パンダ』のマーク・オズボーン監督が講師として招かれ、映像作家を目指す学生達の前で1時間の講義を行った。オズボーン監督はカリフォルニア技術大学でアニメーションを教えていた経験があったことと、もともとインディペンデント作家だったこともあって、生徒達の気持ちをよく理解しており、映画を作る上での心構えが伝わってくる充実した授業となった。

ハリウッドの大作を作ることになって

マーク・オズボーン監督(以下、監督)「もともと以前はインディペンデントのストップモーションアニメーション作家だったので、いきなりハリウッド映画の監督を任されたときにはうろたえた。ハリウッドは予算も大きいし、CGを使う作品も初めてだったからね。自分が選ばれた理由はいくつかあると思うけど、僕が作ったストップモーションアニメーションが色々なところで注目されたから、それでドアが開いたのかもしれない。最初ドリームワークスのプロジェクトのメモを読んだとき、ドリームワークスという会社はハリウッドの大作映画を作る会社ではあるけれど、非常に良質の映画を作ることを目指している会社だということがわかったので、ここならば僕なりの色が出せるのではないかという希望を感じていた。僕が心がけたのは、ハリウッドに行っても、ハリウッドとは違う、もっとパーソナルなものを作ることだった。もともと僕はインディペンデント系の映画作家だから、それをハリウッドの大作へと応用していくのかかなりのチャレンジだったんだけど、それはエキサイティングなことでもあった。僕はとてもユニークで、今まで誰も見たことのないものを作ろうと思った。」

カンフー・パンダ

『カンフー・パンダ』を作る上で

監督「『カンフー・パンダ』で一番大変だったことは、しっかりした面白いストーリーをつくることだった。キャラクターも面白いものでなければいけないし、観客にもわかりやすいものにしなければいけない。また、カンフーのシーンを、既存のカンフー映画とまったく劣らないものにすることも大変だった。ハリウッドの映画は、既存のカンフー映画をよくコピーするけど、僕はそれだけはやりたくなかった。自分なりに新しい、誰も見たことがないカンフーシーンを作りたかったんだ。タイトルに「カンフー」と付けるくらいだからカンフーが良くなければ意味がない。技術的な問題も色々あったけど、なんとか克服して、いいものになったと思うよ。」

インディペンデント映画とハリウッド大作映画の違い

監督「一番極端に違うのは、ハリウッドではものすごく沢山の人と仕事をするということだ。それも才能のある沢山の人たちとね。みんな「映画はこうあるべきだ」というアイデアをもっているし、彼ら全員に同意してもらうのは大変な作業だった。やっと同意してもらったら、今度はそれを何百人ものクルーたちに伝えなければならない。決して一人では出来ない仕事だからね。

僕は映画を作っているときも、ころころ気持ちが変わるんだけど、一人で作っているときは、誰も説得する必要がなくて、気持ちが変わればすぐにアイデアも変えていた。映画作りというのは常に発見の連続であり、いつも自分が作っている映画について学んでいくようなものだったんだ。

ところが、ハリウッドのような大規模の映画だと、アイデアを変えるとお金がかかってしまう。それから自分の考えが変わったことを多くの人に伝えて説得しなければならないから、どうして考えを変えたのか、それを説明する最善の理由が必要になってきて、ものすごく時間と労力がかかってくるんだ。」

表現の手法について

監督「2Dと3Dは全く違う表現テクニックのためのツールと思うべきだ。ハリウッドでは3DCGのアニメーションが多い傾向にあるけど、僕自身ストップモーションの作家でありファンとして、ストップモーションや2Dのアニメーションは今後も作られると思っている。実際『カンフー・パンダ』の中で僕はオープニングで2Dのアニメーションを使っているからね。僕自身が2Dのファンだし、日本のアニメにインスピレーションを受けているから、日本のアニメに敬意を払う意味で2Dのアニメーションを使った。僕は2Dを使うことによってキャラクターの内的な世界が表現できると思った。つまり2つの違う世界があって、それを仕分けるために2Dと3Dを使い分けたわけで、もう表現というものは何でもありなんだ。

一番大切なのはストーリーを語ることだと思う。僕がアニメーションにこだわっているのは、実写ではお金がかかりすぎるからだ。アイデアがファンタスティックすぎるからね。

僕はアニメーションという手法が好きだ。なぜかというとストーリーを磨き上げる期間をかけられるからだ。実写というのは、撮影現場ですべてのものが同時に起こらなければならない。人がいて、場所があって、俳優があって、脚本があって、全部が同時進行なんだ。アニメならばころころ考えが変わっても時間をかけて作ることができるよね。

僕は映画を作っていきながらストーリーを学んでいくように感じている。ストーリーを毎回発見していく感じかな。映画とは、ストーリー自体が自分で進化していくのを助けるようなプロセスだと思う。『カンフー・パンダ』も例外じゃなくて、これはアニメーションだけど、自然発生的にストーリーができていったものなんだ。ライブアクションではないけれど、ライブぽい感じが出ていると思う。」

影響を受けたアニメ

監督「僕らは皆宮崎駿監督のファンなんだ。彼のストーリーを語る上での感受性、非常にリアリスティックなものと、シンプルなもの、とても幻想的なものがうまくブレンドされていて、今回の映画を作る上で見習いたいと思った。映画のエンドロールに、我々にインスピレーションをくれた宮崎駿監督に敬意を表して小さなストーリーをいれておいたからお見逃しなく。また、アクションのタイミングについて日本のアニメからずいぶん学ばせてもらった。アクションをクールにエキサイティングに見せるように『フリクリ』、『サムライチャンプルー』など、日本のアニメを参考にしているんだ。」

キャラクターを作るということ

監督「まず最初にキャラクターをデザインしているときは、そのキャラの性格とか、誰を声優にするかとかは考えない。先にデザインがあって、残りのプロセスはデザインに忠実にキャラクターを作っていくんだ。ポーはジャック・ブラックに役が決まってから、彼にデザインを見てもらって色々なアイデアを出してもらって、そこからまた少しずつ進化して次第にキャラクターができあがっていったんだ。デザイナーとジャック・ブラックの両者がキャラクターの性格を作り上げていく感じだね。ジャック・ブラックらしい元気なところ、スピリットももちろん入ってるけど、願わくばポーは今まで見たことのないキャラクターになっているはずだよ。」

オズボーン監督・映画を作る上での3つのアドバイス

1.自分の本能を信じること
自分の本能に耳を傾けることで、自分なりのスペシャルさができるし、他の人の本能にもコネクトすることができる。

2.リスクをとること
リスクをとることで何か違うものができる。

3.失敗する贅沢を許すこと
映画作りをすることは失敗の連続。失敗したからといって止まらないで映画を作り続けること。失敗することで学ぶことも大事。

デジタルハリウッド大学 デジタルハリウッド大学生徒、マーク・オズボーン監督、デジタルハリウッド大学高橋光輝氏

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