主人公 (フィルムロジック)
Lesson 6
主人公
登場人物が全くいない実験映画や、主人公といえる人物が定められていない群像劇にも傑作はあるが、たいていの映画には主人公が存在する。主人公の魅力は、作品の価値を大きく左右する。魅力のない主人公では、大衆は主人公に共感することができない。チャップリン、ジェームズ・ディーン、オードリー・ヘプバーンの映画や、「007」、「インディ・ジョーンズ」などのシリーズものが受ける理由はそこにある。漫画の「シティーハンター」があそこまで人気があるのも、主人公の魅力の成せるワザなのである。
そこで今回のフィルムロジックでは、魅力ある主人公たちを特集した。
「ロッキー」
監督:ジョン・G・アビルドセン 主演:シルベスター・スタローン
主人公の名前がタイトルになったケース。こういう映画は、やはり主人公にとても魅力がある。「ロッキー」を嫌いという人はまずいないだろう。個性的な主人公なので、続編にも味があり、幅広い年齢層に末永く愛されている。「ロッキー」第一作は別格の面白さ。ロッキーの生き様は妙に人間くさく、またユニークなセリフがたまらない。脚本はスタローン自身が書いたものだ。
「アラビアのロレンス」
監督:デビッド・リーン 主演:ピーター・オトゥール
広大な砂漠を背景にして、とにかくスケールのでかい作品だが、それでいて登場人物の人間像もきちんと描かれている。実在した人物の伝記映画だから、主人公の印象が強いのは当たり前ではあるが、この系統は、実話という点で、主人公の性格が非常に興味深く見えてくる。ピーター・オトゥールはコミカルなイメージが強いが、実はこんな大役もやっていたのである。
「タクシードライバー」
監督:マーチン・スコセッシ 主演:ロバート・デ・ニーロ
画になる主人公の代表格。ニューヨーク社会を、ロバート・デ・ニーロ扮する不眠症のタクシードライバーの目からみた映画である。このタクシードライバーのモノローグが面白い。バックミラーごしに客を見るシーンや、部屋にこもって鏡の前でぶつぶつ言うシーンは必見である。ファッション・センスも良く、この着こなしに憧れるファンも多かった。
「大人は判ってくれない」
監督:フランソワ・トリュフォー 主演:ジャン・ピエール・レオ
フランソワ・トリュフォーの映画はいかにも映画的で、素晴らしい。出世作「大人は判ってくれない」は自伝的な作品で、主人公アントワーヌ・ドワネル少年はその後も4作の続編に登場する。彼のとる行動のひとつひとつは、スクリーンから体温を感じさせるほど味わい深い。トリュフォーは自分の分身であるアントワーヌ少年の成長の日記を生涯映画化し続けた。トリュフォーが生きていたらなら、中年アントワーヌの生活も見られたかもしれない。
(C)Walt Disney
「メリー・ポピンズ」
監督:ロバート・スティーブンソン 主演:ジュリー・アンドリュース
僕はこれを見たとき、うちにもメリー・ポピンズのお姉さんが来ないかな、なんて思ったものである。それだけ愛すべきキャラクターである。彼女は乳母さんだ。だから母性愛の固まりみたいなもの。そこが僕らを引きつけるのだろう。魔法が使えるところも楽しいし、子守歌も上手。アニメの世界にも連れていってくれるし、楽しいことばかり。ほんとに素敵なお姉さんです。
「パピヨン」
監督:フランクリン・J・シャフナー 主演:スティーブ・マックィーン
とにかくこの男を見ろ、という感じである。パピヨンはとある囚人のニックネームで、この映画はこの男の人間離れした生活ぶりを追ったフィクションの大作である。無罪で投獄されるも、脱走し、力一杯生きていく様子はロマンたっぷり。ラストシーンは主人公の生き様を一瞬にして示した名場面だ。マックィーンの映画では異色の名作である。
「ビッグ」
監督:ペニー・マーシャル 主演:トム・ハンクス
ある日突然大人になってしまった子供の物語。姿形は大人だけど、やることすべて子供そのもの。これが大人と子供の考えの違いがユーモラスに表れていて、画的にも愉快。それにしても主演のトム・ハンクスの演技が素晴らしい。一番面白いのはおもちゃ屋で遊ぶシーン。無邪気な表情が良かった。
「明日に向って撃て!」
監督:ジョージ・ロイ・ヒル 主演:ポール・ニューマン&ロバート・レッドフォード
主人公は一人とは限らない。性格の違う二人のコンビを登場させて、二人のやりとりでストーリーを盛り上げるパターンはよくある。「明日に向って撃て!」はそのタイプである。アメリカン・ニュー・シネマの流れで、アンチ的ではあるが、オシャレでウィットに富んだ内容になっている。ラストで二人が袋の鼠になっていてもまだ戦おうとする姿勢がかっこいい。
「トッツィー」
監督:シドニー・ポラック 主演:ダスティン・ホフマン
チャップリン、ロビン・ウィリアムズ、テレンス・スタンプ、色々な名優たちが女装に挑戦したが、ダスティン・ホフマンの魅力には勝てまい。社会派コメディ「トッツィー」のホフマンは性格や表情が本当に魅力的だった。女だけど男という設定が、面白いシチュエーションになってきて、男女が入り乱れた展開に。実は密かに感情移入しやすいハートのドラマでもある。
「スミス都へ行く」
監督:フランク・キャプラ 主演:ジェームズ・スチュアート
スミスは本当にいい人である。田舎からワシントンにやってきた馬鹿正直な青年である。議事堂を見て興奮したり、リンカーン記念館に訪れて本気で感動したり、都会のお姉さんに見つめられて慌てたり、でかい男だけど、表情やしぐさが可愛い。正義感が強く、悪を相手に真っ正面から闘いを挑むあたりも、感動させられる。
今回は作品選びが難航しました。他にも紹介したかったキャラクターは、悪役やら老人やら、大勢いましたが、涙を呑んで10作品から選ばせてもらいました。
でも、気が付けば男ばかり・・・。私が男なので、やはり男の主人公ばかりに感情移入してしまうようです。