100年前のクラシック映画から映画史を読み解く


ロー・アングル (フィルムロジック)

Lesson 2
ロー・アングル

 ローアングルの定義は曖昧であるが、

  (1)被写体を見上げるように撮ったショット
  (2)被写体よりも低い位置(ロー・ポジション)から撮ったショット

 以上の2つの意味が一般的であろう。(1)の場合、カメラは斜め上を見上げているが、(2)の場合は、カメラが水平に対して平行である可能性も考えられる。(1)と(2)の印象は異なり、映像の意味もずいぶんと違ってくるが、今回はその2つをひとまとめにして勉強しよう。

 一般家庭のホームビデオでも、ローアングルは多用している。建物を撮るときは嫌でもローアングルで撮影しているはずである。しかし、映画ではローアングルで撮らざるをえないものだけローアングルで撮っていたのでは芸がない。どうせならローアングルで撮らなくてもいいようなシーンをローアングルで撮ってみたいものである。

 ローアングルと聞いて、何よりもまず最初に浮かぶのは、「市民ケーン」である。この映画では全編に渡ってローアングルが頻繁に使われており、ローアングルの妙を体感するにはもってこいである。普通、セットには天井はないはずだが、プロデューサーのオーソン・ウェルズは、セットに天井をはらせて、床に穴を開け、床下から俳優を大胆に撮影した(右写真)。こうすることで、従来の映像にはなかった効果を発揮することができたのである。 
 ローアングルの効果は様々であるが、次にその効果の代表的なものをいくつか取り上げてみた。
「エクソシスト」
監督:ウィリアム・フリードキン 撮影:オーウェン・ロイズマン、他

 ローアングルというものは、感情に訴えかける要素を含んだ演出である。普通のショットも、ローアングルで撮れば感動が倍増することがある。「エクソシスト」ではローアングルとロー・ポジションが多用されているが、同作の場合は恐怖をかきたてる効果があるようだ。左の写真だけでも、生理的不安感を抱いてしまう。
「ウエスト・サイド物語」
監督:ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンス 撮影:ダニエル・L・ファップ

 とにかくダイナミックなダンスが売りの「ウエスト・サイド物語」。左の写真ではわかりにくいかもしれないが、床の奥行きを強調させるためにさりげなくローポジションで撮っていることに気付く。映画館で見たら、このアングルはかなりの臨場感があったに違いない。
「E.T.」
監督:スティーブン・スピルバーグ 撮影:アレン・ダビュー

 「E.T.」はローアングル、ローポジションを多用した映画である。子供の目線で撮っているからである。また、宇宙人の目線でもある。しかしカメラは大袈裟に見上げない。だから大人の顔は見えず、子供の顔しか見えない。左は宇宙人の目線から見た少年の映像である。これは、先ほど説明した定義では②の方になる。
「東京物語」
監督:小津安二郎 撮影:厚田雄春

 小津は可能な限りカメラの高さを低くすることを望んでいたらしい。ちなみに、撮影は標準レンズしか使わない(人間の視界に最も近い)。だから小津映画は、他の映画とは全く違った印象を受ける。これは、畳に座った人と同じ立場の映像になっているわけで、落ち着いており、親近感が表れるのだ。
「市民ケーン」
監督:オーソン・ウェルズ 撮影:グレッグ・トーランド

 ローアングルから生じる効果に「威圧感」がある。ウェルズの演出は実にニクイ。左写真は普通なら水平アングルで撮るような場面だが、彼の天性は、こうも角度の急なアングルを発想させた。バックに天井が写っているので、圧迫感のある映像になっており、二人の仲が裂ける様が暗示されるのだ。
「八十日間世界一周」
監督:マイケル・アンダーソン 撮影:ライオネル・リンドン

 建造物がローアングルで撮影されるのは、人間の見た目のイメージと統一させるためにも、一般的な演出だと言えるが、この場合、西洋人が見た東洋の摩訶不思議がこのワンカットに表現されている。映画でいう建造物の映像には大抵意味がある。無論、記念に撮っただけというような映像はない。
「第三の男」
監督:キャロル・リード 撮影:ロバート・クラスカー

 ほとんどのショットをカメラをどちらかに傾けて撮影した「第三の男」は、さすがに個々のカットが洒落ている。左の写真は余りにも有名な観覧車のショットである。この構図は、まずセンスがよく、映画をよりオシャレにして、よりテンポよく運ばせる。とにかく本作は映像のユーモアが楽しめる映画である。
「ダイヤルMを廻せ!」
監督:アルフレッド・ヒッチコック 撮影:ロバート・バークス

 ヒッチ先生はローアングルを撮らせても上手い。彼の作品で、特殊といえるローアングルは、「ダイヤルMを廻せ!」である。これは3D映画として企画されたので、奥行きを強調するために、わざとローアングルを多用して撮影し、立体感を出すことに成功した。3D映画では、同作は史上ベストといわれる。
 ローアングルは、カメラが趣味になってくると、欠かせない技法になってくる。観光地では、ちょっとカメラに自信がありそうな人がしゃがんで景色を撮っているところをよく見かける。
 実際、水平アングルと比較してみても、印象はずいぶんと違う。構図が生きてくるというか、奥行きの水平線が斜めになるので、空間が強調されるのである。
 映画を見ていても、意識しなければ普通ローアングルには気付かない。そんな些細な演出が、映画の緊張感を盛り上げていくのである。

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