クロースアップ (フィルムロジック)
Lesson 1
クロースアップ
今回お勉強するのは「クロースアップ」、つまり人物の接写だ。これがとても難しいのである。この技法を多用する監督もいれば、ほとんど使わない監督もいる。ただ俳優の顔を写せばいいってものじゃないことは、わかりきったこと。クロースアップは、うまい演出家と下手な演出家とで、大きな差のでる撮影法のひとつといっていいだろう。
以下の写真は、クロースアップの効果が存分に発揮されたショットの一コマである。ひとつづつ説明していこう。
「カサブランカ」
演出:マイケル・カーチス 演技者:イングリッド・バーグマン
イングリッド・バーグマンが「As Time Goes By」を聞きながら物思いに浸るシーンである。これは同時にバーグマンの美しさを見せつけるクロースアップでもあり、観客をうっとりとさせる。当時、「映画はスターを見るためのもの」という神話があったので、スターをアップでとることは映画製作において最も重要であった。
「地下鉄のザジ」
演出:ルイ・マル 撮影:アンリ・レシ 演技者:カトリーヌ・ドモンジョ
お茶目なコメディ「地下鉄のザジ」は、王道的な演出を敢えて活用して、独自のアイデンティティを見せつけたルイ・マルの異色作である。カラー映像は白黒の映像と比べると、ムードを出すのが随分と難しいのだが、それを逆手にとって原色のコミカルな味わいを引き出して、キャラクターに活気を与え、生き生きと演出した。左のカットは、満面の笑みを浮かべる主人公を自由奔放に捉えた見事なショットである。
「裁かるるジャンヌ」
演出:カール・ドライエル 撮影:ルドルフ・マテ 演技者:マリア・ファルコネッティ
クロースアップといえばこの映画。ほとんどクロースアップだけで見せる映画だからである。ジャンヌ・ダルクの顔をひたすら捉えるカメラは、目の表情だけでも相当なインパクトを与える。サイレント映画の場合、まず映像が脳裏に焼き付くが、こういったサイレント方式のクロースアップは、これが最も決定的だったのではないか。
「イワン雷帝」
演出:セルゲイ・エイゼンシュタイン 演技者:ニコライ・チェルカーソフ
エイゼンシュタインの作品は何より形式を重んじている傾向がある。つまり、映像だけでも説得力がある。構図の美しさ、セットとの空間的対比、ライティングによる濃厚なシルエット。写真のフィルム一コマが芸術なのだ。しかし近頃の映画にはこういう映像がほとんど無くなってしまった。こういうクロースアップは、上手く撮ろうとすると、逆に下手に見えてしまうので、敬遠されているのかもしれない。
「激突!」
演出:スティーブン・スピルバーグ 撮影:ジャック・マータ 演技者:デニス・ウィーバー
「激突!」は、どのシーンも演出が練りに練られていて面白い。ここで取り上げているのは喫茶店のシーン。主人公が考え込む主観のショットだ。正体不明の大型トラックに命を狙われる男が、これからどうするかをできるだけ冷静に考え込んでいるが、どうしても落ち着けないでいる様が表れている。
「失はれた地平線」
演出:フランク・キャプラ 撮影:ジョゼフ・ウォーカー 演技者:ロナルド・コールマン
これは、フランク・キャプラの異色作「失はれた地平線」の最も印象的なショットである。理想郷シャングリラを去るときに主人公が見せる表情であるが、この表情にどれだけ複雑な思いが表れていることだろうか。ロナルド・コールマンのやや哀愁のある顔付きが、この大作ドラマを一層感情的に締めくくる。これがハリウッド流クロースアップだ。
「夕陽のガンマン」
演出:セルジオ・レオーネ 撮影:マッシモ・ダラマーノ 演技者:クリント・イーストウッド
マカロニ・ウエスタンのクロースアップはカッコイイ。左写真は無敵のガンマン、クリント・イーストウッドが3人のガンマンを前にして余裕の表情を見せる渋めのワンカットである。このクロースアップからは堂々とした威厳も伝わる。この数秒後に、イーストウッドはアッという間に3人を撃ち殺してしまう。
「第三の男」
演出:キャロル・リード 撮影:ロバート・クラスカー 演技者:オーソン・ウェルズ
「第三の男」のキャメラは凄い。どのショットを見ても、そのセンスの素晴らしさには唸ってしまう。左写真は余りにも有名なハリー・ライム初登場のシーン。暗闇の中からオーソン・ウェルズの顔が浮かび上がり、ニンマリ笑う。ツィターの音楽もマッチして、粋なシーンに仕上がっている。
「知りすぎていた男」
演出:アルフレッド・ヒッチコック 撮影:ロバート・バークス 演技者:ドリス・デイ
ヒッチコックは天才である。このコーナーの常連になりそうだ。彼の演出は独特で、それでいて最高に素晴らしかった。左のショットは、「知りすぎていた男」の印象的な名場面。主人公は、じきに暗殺が実行されることを知っているのだが、どうしていいのかわからず、とっさに悲鳴をあげる。ヒッチ御得意のショック演出というわけだ。
クロースアップには何らかの意味がある。登場人物の心理を描出したり、観客をアッと驚かせようとしたり、雰囲気を盛り上げたり、細部を説明したり、スターの美しさを見せつけたり、効果は様々である。その効果を最大限に発揮させるためには、前後のシーンのつながりや、シチュエーションをよく考えて、タイミング良く見せることが大切である。
クロースアップ
今回お勉強するのは「クロースアップ」、つまり人物の接写だ。これがとても難しいのである。この技法を多用する監督もいれば、ほとんど使わない監督もいる。ただ俳優の顔を写せばいいってものじゃないことは、わかりきったこと。クロースアップは、うまい演出家と下手な演出家とで、大きな差のでる撮影法のひとつといっていいだろう。
以下の写真は、クロースアップの効果が存分に発揮されたショットの一コマである。ひとつづつ説明していこう。
「カサブランカ」
演出:マイケル・カーチス 演技者:イングリッド・バーグマン
イングリッド・バーグマンが「As Time Goes By」を聞きながら物思いに浸るシーンである。これは同時にバーグマンの美しさを見せつけるクロースアップでもあり、観客をうっとりとさせる。当時、「映画はスターを見るためのもの」という神話があったので、スターをアップでとることは映画製作において最も重要であった。
「地下鉄のザジ」
演出:ルイ・マル 撮影:アンリ・レシ 演技者:カトリーヌ・ドモンジョ
お茶目なコメディ「地下鉄のザジ」は、王道的な演出を敢えて活用して、独自のアイデンティティを見せつけたルイ・マルの異色作である。カラー映像は白黒の映像と比べると、ムードを出すのが随分と難しいのだが、それを逆手にとって原色のコミカルな味わいを引き出して、キャラクターに活気を与え、生き生きと演出した。左のカットは、満面の笑みを浮かべる主人公を自由奔放に捉えた見事なショットである。
「裁かるるジャンヌ」
演出:カール・ドライエル 撮影:ルドルフ・マテ 演技者:マリア・ファルコネッティ
クロースアップといえばこの映画。ほとんどクロースアップだけで見せる映画だからである。ジャンヌ・ダルクの顔をひたすら捉えるカメラは、目の表情だけでも相当なインパクトを与える。サイレント映画の場合、まず映像が脳裏に焼き付くが、こういったサイレント方式のクロースアップは、これが最も決定的だったのではないか。
「イワン雷帝」
演出:セルゲイ・エイゼンシュタイン 演技者:ニコライ・チェルカーソフ
エイゼンシュタインの作品は何より形式を重んじている傾向がある。つまり、映像だけでも説得力がある。構図の美しさ、セットとの空間的対比、ライティングによる濃厚なシルエット。写真のフィルム一コマが芸術なのだ。しかし近頃の映画にはこういう映像がほとんど無くなってしまった。こういうクロースアップは、上手く撮ろうとすると、逆に下手に見えてしまうので、敬遠されているのかもしれない。
「激突!」
演出:スティーブン・スピルバーグ 撮影:ジャック・マータ 演技者:デニス・ウィーバー
「激突!」は、どのシーンも演出が練りに練られていて面白い。ここで取り上げているのは喫茶店のシーン。主人公が考え込む主観のショットだ。正体不明の大型トラックに命を狙われる男が、これからどうするかをできるだけ冷静に考え込んでいるが、どうしても落ち着けないでいる様が表れている。
「失はれた地平線」
演出:フランク・キャプラ 撮影:ジョゼフ・ウォーカー 演技者:ロナルド・コールマン
これは、フランク・キャプラの異色作「失はれた地平線」の最も印象的なショットである。理想郷シャングリラを去るときに主人公が見せる表情であるが、この表情にどれだけ複雑な思いが表れていることだろうか。ロナルド・コールマンのやや哀愁のある顔付きが、この大作ドラマを一層感情的に締めくくる。これがハリウッド流クロースアップだ。
「夕陽のガンマン」
演出:セルジオ・レオーネ 撮影:マッシモ・ダラマーノ 演技者:クリント・イーストウッド
マカロニ・ウエスタンのクロースアップはカッコイイ。左写真は無敵のガンマン、クリント・イーストウッドが3人のガンマンを前にして余裕の表情を見せる渋めのワンカットである。このクロースアップからは堂々とした威厳も伝わる。この数秒後に、イーストウッドはアッという間に3人を撃ち殺してしまう。
「第三の男」
演出:キャロル・リード 撮影:ロバート・クラスカー 演技者:オーソン・ウェルズ
「第三の男」のキャメラは凄い。どのショットを見ても、そのセンスの素晴らしさには唸ってしまう。左写真は余りにも有名なハリー・ライム初登場のシーン。暗闇の中からオーソン・ウェルズの顔が浮かび上がり、ニンマリ笑う。ツィターの音楽もマッチして、粋なシーンに仕上がっている。
「知りすぎていた男」
演出:アルフレッド・ヒッチコック 撮影:ロバート・バークス 演技者:ドリス・デイ
ヒッチコックは天才である。このコーナーの常連になりそうだ。彼の演出は独特で、それでいて最高に素晴らしかった。左のショットは、「知りすぎていた男」の印象的な名場面。主人公は、じきに暗殺が実行されることを知っているのだが、どうしていいのかわからず、とっさに悲鳴をあげる。ヒッチ御得意のショック演出というわけだ。
クロースアップには何らかの意味がある。登場人物の心理を描出したり、観客をアッと驚かせようとしたり、雰囲気を盛り上げたり、細部を説明したり、スターの美しさを見せつけたり、効果は様々である。その効果を最大限に発揮させるためには、前後のシーンのつながりや、シチュエーションをよく考えて、タイミング良く見せることが大切である。