アン・バンクロフト

アン・バンクロフト

No.341 Anne Bancroft (1931-2005) US Actress

 調べてみたら、本名はアンナ・マリア・ルイーズ・ イタリアーノとのこと。名前からわかる通り、イタリア系の女優だった。言われてみればそんな感じ。『奇跡の人』(62)を見てみると、顔がアメリカ人っぽくなくて、そこが良かったんだけど、なるほどイタリア系だったのか。

 舞台でも映画でも主演を務めた『奇跡の人』はアン・バンクロフトの代表作。目も見えない耳も聞こえない口もきけないヘレン・ケラーの家庭教師アニー・サリバンの役で、スプーンをすぐに投げ捨てて暴れるヘレンに半ばキレたように何度も何度もスプーンを持たせる迫真の演技が評価された。言うことを聞かないペットをしつけるかのような、そんなイメージさえある物凄い演技で、見ている方までクタクタになるような名シーンで、彼女はアカデミー賞を受賞することになった。

 この時から30歳をすぎていたので、アン・バンクロフトにはあまり若さのイメージがない。最初から演技派でやってきたという感じだ。僕は彼女を見るにつけ、女優というのは彼女のような人を言うのだと思う。おばあちゃんになっても、それでも映画に出続ける。女優一筋。こういう人生もいいんじゃないかと思う。割と日本の女優は彼女に通じている気がしなくもない。

 『卒業』(67)は映画ファンなら一度は通らなければならない60年代の代表作。アン・バンクロフトは若い青年をもてあそぶおばさん役。童貞かと聞いて怒らせるシーンが印象深かった。それほど美人というわけでもないところがいい。サイモンとガーファンクルはこのために名曲「ミセス・ロビンソン」(グラミー賞受賞)を書き下ろした。

 夫メル・ブルックスの映画にもよく出ている。夫が製作した『エレファント・マン』(80)では気品のある人気女優の役を演じた。

 『アサシン』(93)、『G. I. ジェーン』(97)ではアン・バンクロフトが出てくるシーンを見るとなんだか嬉しくなってきた。老けてからもビッグキャストとして重要な役を演じていたからだろう。彼女は若い頃の面影を残しつつ、さらに磨きをかけて女優臭くなっていた。(2008/5/12)