遠くの空に消えた
日本のヒットメーカー行定勲監督による賛否別れた異色作
『遠くの空に消えた』
2007年日本
出演:神木隆之介、大後寿々花、ささの友間、 小日向文世、三浦友和、大竹しのぶ、長塚圭史、鈴木砂羽、伊藤歩、石橋蓮司、他
主題歌:Cocco(書き下ろし)
販売元:ギャガ・コミュニケーションズ
このDVDの発売記念イベントで、行定勲監督のトークショーに行って来ました。(その模様はこちらのページに記載しています)
行定勲監督は僕も『GO』を見たときからお気に入りで、現在の日本の映画監督の5本の指に入る1人だと思ってるのですが、今回のトークショーで、ますます大ファンになりましたよ。性格も面白いんですね。僕も色々な人のトークショーを見ましたが、大抵のトークショーは中身がなくて、結局宣伝だけで終わっていたりなんてことが多いのですが、今回の行定監督のトークショーは面白かったです。僕自身、学ぶことが多かった。これからも陰ながら応援していこうと思いましたもん。
なんというか、狙って言っているわけでもないのに、言うことが面白いんですよね。半分はジョーク交じりですが、半分は本気で語っているんです。天然というか、きっと普段から考えていることが常識外れなんでしょうね。次から次へと話題が出て来て、またそこから新しい話題を閃いて、最初の質問はどこへ言ったのか、すぐに脱線するのですが、トークのひとつひとつが冴え渡っていて面白い。脳内で電撃がビリビリ走っているんじゃないかと、そんなことを思ったりしました。監督となら何時間でも語り明けそうな、そんな感じの人。ある意味、変わり者ですが、これはすごい才能なのではないかと思います。僕自身のモットーは「変わり者であれ」ですが、監督を見て、僕の考えは間違っていなかったと確信しました。
ここで紹介する『遠くの空に消えた』は去年公開されて、今月出たばかりのDVD。レンタル店に行くとわかりますが、片や『クローズド・ノード』は全部レンタル中だったのに、こっちは一本も借りられてませんでした。レンタル店のレンタル割合で一般受けしているか否かがすぐにわかっちゃうわけですけど、どうやらこれは見る人を選ぶ映画になりそうです。
監督は仕事柄、いつもマスコミに質問されてばかりでしょうが、そのマスコミにどういう感想をもたれているのかは気になるところでしょう。僕の感想はというと、正直言えば理解できなかったのです。あくまで趣味の問題ですが、これは残念ながら僕の嫌いな部類ですね。あまり出来の良いものだとは思わなかったわけですが、監督がトークショーで言っていたように、これは人それぞれ、好きと嫌いな人がいてもいい映画だということで、それならばこういう映画もありだなと納得しました。僕は否定派の一派になるわけですが、僕がいくら駄目といっても他の人が絶賛していればそれはそれで良いんです。ネットを検索してみたら邦画で一番好きだと書いている人も確かにいます。
その意味では、映画監督も映画ライターも同類なんだなあと、僕は奇妙な共感を得てしまいました。僕もこのサイトを僕だけのスタイルで守り続けて来ました。万年アングラで、お陰でページビューはへぼへぼ。まだまだ他の映画サイトの足下にも及びません。僕の映画批評をボロクソにけなす人も大勢いますが、僕のサイトを愛してくれているファンはきっといるはず。何も皆に媚びる必要はない。僕は僕のやり方でやればいいんだと、監督に教えられました。人生観が変わったというと大袈裟ですが、物凄くやる気を奮い立たされて、感謝したい気持ちでいっぱいです。
映画を擁護するわけではありませんが、理解できなくとも、映画は最後まで引き付けられながら見ることが出来たことを付け加えておきます。たぶん1シーン1シーンのビジュアルが強かったからでしょう。その点、SFですよこれは。日本じゃないどこか違う国みたいでした。絵的には、こういう演劇を僕も昔何度か見たことがありますが、監督も言っていたように、演劇的なものを映画のビジュアルに変換しようとしている様子がうかがえました。しかしイメージ重視の映画だったので、そこから最後に何か凄いことでも起きそうな大きな期待を抱かせてしまったわけで、開けてみて「なぁんだ」と思ったわけです。何にしても映画を作ったのは凄いです。作ったものは未来永劫残る文化遺産になるわけですから。僕には逆立ちしてもできない芸当です。
今回は原作ものではなく、監督自身のオリジナル作品ということですが、個人的趣味に走りすぎている感じは受けました。僕等ライターの間では否定的な意味で「自己満足映画」という表現がよく使われますが、今回は肯定的な意味で使いたいと思います。監督がトークショーで「誰にも見てもらえなかった」、「賛否両論別れた」といっていたのは、ある意味敗北宣言のようにも聞こえましたが、トークショーの後になると、なんだか不思議とこれが僕には愛すべき映画に思えてきたわけです。数年後にもう一度見直したらまた評価も違ってくるかも。
監督が「実際僕も子供だった。昔子供だったことが奇跡に思えてくる」と言っていたことには僕も激しく同意します。そこが監督の描きたかったことだとすれば、この映画は、成功だったといえるかもしれません。というのも、僕はこれを見て、小学時代を思いだしましたから。僕もこの映画の子供たちみたいに、チビのころ、よく下校時に探検をしましたし、アンテナじゃないけど、夢中で秘密基地を作って遊びました。ウンコ爆弾はやってないけど、バキュームカーは追いかけました。そんな自分を思いだしたのは何年ぶりでしょうか。これは得がたいものですよね。学校の国語の教科書か何かで、蜜蜂が「自分は飛べると信じているから飛べる」と書かれていたのを読んで、僕は長らくそれを座右の銘にしていた時期があったのですが、いつしかそれは忘却の彼方にありました。この映画を見て、約20年ぶりに思い出させてくれました。この映画のテーマは僕のあの頃の座右の銘と同じだったのです。
とてもトークが面白かった行定勲監督。このDVDでは特典として監督のオーディオコメンタリーがついています。映画を見ただけでは伝わって来るものがなかったという人も、監督の話を聞きながら鑑賞すると、その意志が伝わって来るかもしれませんね。(2008/3/23)