第7夜『ジャンパー』

世界中どこにでも自由自在に瞬間移動できる青年の物語

 『ボーン・アイデンティティ』のダグ・リーマンによる瞬間移動をテーマにしたアクション映画である。主演は『スター・ウォーズ』シリーズのヘイデン・クリステンセン、共演は『キング・コング』のジェイミー・ベル。2008年公開。

 あらゆるSF映画でテレポーテーションやワープ、瞬間移動などが描かれてきたが、どれもサブストーリー的なものだった。この『ジャンパー』は瞬間移動をメインストーリーにもってきた映画で、その点ではかなり目新しい映画ではないだろうか。監督のダグ・リーマンは今まさに脂が乗っているヒットメーカーである。主人公がロンドンやパリなど、世界中を一瞬にして旅するティーザー予告も目立ってか、大ヒットした。

 今までの映画では、瞬間移動するとなると、それなりに準備が必要だったり、念ずるのにかなりの気合いが必要だったりしたものだが、この映画は、手を伸ばす感覚でいとも容易く瞬間移動するところが面白い。しかも何度でも好きなだけできる夢のようなガキである。自分の部屋では人目も気にせず瞬間移動しまくりで、キッチンに行くにもリビングに行くにも瞬間移動。部屋の中では歩かない。ずぼらだけど自分の腕には満足げである。

 スフィンクスのてっぺんでランチを食べたり、フィジーでサーフィンしたり、自由にジャンプしまくる見せ方がスピーディーで面白いが、人生を遊びほうけて楽しんでいるようで、それでいて、どことなくこの主人公からは孤独を感じる。そこがこの映画の肝かもしれない。

 まだ分別のついていない若造を主役にもってきたのは正解だった。ちょっと生意気な感じはさすがはダースベーダー役者。テレビで遭難している人達のニュースを見ても彼には知ったことじゃなく、助けに行こうともしない。他人に迷惑をかけても気づかない。罪もない市民をあらぬ場所に置いてけぼりにもする。決して正義のヒーローなんかじゃなく、自分のやりたいことをして生きている。銀行の金庫に瞬間移動して、お金を盗み、毎日世界のどこかでのんびりして一生遊んで暮らすわけである。思いとどまることを知らず、自分で動きたいままに動く。やることが正直すぎる主人公である。ワルというよりはむしろ正直者。そんな彼は人間の欲の象徴ともいえるのではないか。善人ぶっていないところが鑑賞者の本能に訴えるのだ。

 特筆すべきところは、これを見ると「もしも自分だったら」と、鑑賞者にその世界をシミュレーションさせることだ。他のSF映画では瞬間移動するキャラが出てきたところで、「自分も瞬間移動ができたら」なんて、そんなことは考えもしないのに、この映画の場合、主人公が我々の本能に近い人間なので、すんなりと自分に置き換えて見られてしまう。「僕だったらこうやって暮らすだろうな」「僕だったらこの力を使ってあれこれこうするだろう」などなど、鑑賞者の想像はどこまでも膨らんでいく。だから見終わった後も映画の余韻が長続きするわけである。こういう考える楽しみを与えてくれただけでも、この映画はエンターテイメントとして成功していることになる。

 あと、書き忘れてならないのがサウンドトラック。主人公の自由な私生活ぶりがうまく表現されており、久しぶりに映画音楽らしい耳に残る音楽であった。90分もない短い映画だが、勢いで作ったような内容にしては、音楽を聴くノリで見られる、手堅く鮮やかな一本である。(2008/3/11)