デス・プルーフ

名作『バニシング・ポイント』ばりのイカしたカーアクション!

デス・プルーフ
『デス・プルーフ』
2007年アメリカ
監督:クエンティン・タランティーノ
販売元:ジェネオン エンタテインメント

 ロバート・ロドリゲスの『プラネット・テラー』と共に、グラインドハウス映画(60年代〜70年代にあった常識破りのアクション映画)を復活させるべく製作された作品。

 いつも何か驚かせてくれるタランティーノ監督の作品とあって、僕は前評判も何も聞かずに頭を空にして見てみた。僕はタランティーノの映画を見るにつけ、映画の「映画」としての楽しさを教えてもらう気がする。それは話の面白さとか、映像の美しさとか、そういうものじゃなくて、「俺は今映画を見てるんだ」という楽しさである。

 その意味では、この映画は僕の期待を裏切らなかった。まず誰しも感じたであろう特異なポイントは、映像をあえて古くしていること。上映しすぎたフィルムの傷み感を再現している。「お、タランティーノ、今回もやっとるなあ」と久しぶりにタラらしい自意識をそこに感じた。古い時代の映画かと思わせておいて、かと思うとケータイでメールをとばすシーンがあったり、被写体とフィルムの質感のミスマッチが面白く、自分は今映画を見ているのだという気分にさせてくれる。

 一番良かったのは、この粗い映像で見る女性たちのお尻と脚。あえてローアングルで強調して見せる。ヴァネッサ・フェルリト、ローズ・マッゴーワンら、前半に出て来る女優たちは揃いも揃って良い女ぶり満開。『パルプ・フィクション』でユマ・サーマンを見た時はびびったもんだが、それと同じくらい衝撃を受けた。使われている音楽のセンスもダンスの振り付けもここ最近の映画ではずばぬけてインパクト大。酒場のセットが雰囲気たっぷりで、何気ないシーンにも映像的な力強さを感じる。

 気になったのは、映像に比べると音声が綺麗すぎたこと。せっかく良い感じの映像なので、できれば音ももっと汚して欲しかった。後半で映像が急にモノクロになったり綺麗な画質になったりするのも無意味である。最後まで前半の演出を貫いてくれればもっと高く評価しても良かったのに。

 カート・ラッセルは酒場のシーンが良い。そこで何かを食べてるんだけど、その食べ方が汚くて、野蛮な男臭さが出て何やらかっこいい。てっきりバート・レイノルズみたいな役なのかと思ったら、これが殺人鬼だったというのが最初のサプライズ。事件発生までよく長々と溜めに溜めたもので、それゆえに意外さに驚く。

 タランティーノらしい技は、この映画を前半と後半で真っ二つに割ったこと。女性たちの他愛もない無駄話も、前半と後半ではその見方が変わって来る。後半では、「こいつらも犠牲者になるのか」という不安の中に見せられることになるのだ。タランティーノはそこをさらに裏をかいてくれた。

 見どころはラストのカーチェイス。『バニシング・ポイント』を俺の映画でもやりたいと言わんばかりにあえて同じ車を使って我が道を突き進んだタランティーノのこだわりが映画ファンを泣かせる。昔の車の鉄の固さが伝わって来る本物のカーチェイスが熱い。だいたいスタントマンを主役にした映画なんて『雨に唄えば』以来初めてみたよ。小粒だが、好き勝手にやっている感じが僕はとても好きだ。(2008/3/5)