『オリヲン座からの招待状』主演の宮沢りえさんと加瀬亮さん

厚木テアトルシネパーク閉館
最終上映『オリヲン座からの招待状』
宮沢りえさん、加瀬亮さん、最後の舞台挨拶

 14年の間、厚木の映画ファンたちから愛されてきた映画館「厚木テアトルシネパーク」が残念ながら今月で閉館することになりました。同映画館では最後にファンに感謝を込めて「最後に見たい映画」を投票で選出し、最後の週にまとめて上映することになりました。

 最終週間の初日第一回目の上映を飾るのは『オリヲン座からの招待状』です。上映後、主演の宮沢りえさんと加瀬亮さんが厚木の映画ファンに感謝を込めて舞台挨拶をしました。

 映画上映終了後、宮沢さんと加瀬さんが客席前に立ったとき、ついさっきまでスクリーンの中にいた二人がまるでスクリーンから抜け出したかのようで、厚木の映画ファンの皆さんはとても感慨深い様子でした。

 宮沢さんは自分がここに来たことで、映画の中の主役のイメージを壊さないかと心配していましたが、この映画が最後の上映に選ばれたことにはとても感謝していました。

日本アカデミー賞授賞式について

宮沢りえさん

 宮沢さんも加瀬さんも、前日日本アカデミー賞で優秀主演女優賞と優秀主演男優賞を受賞したばかりです。宮沢さんは前日の授賞式について「ああいう場所に慣れることは全然ない。毎回ドキドキする」と明かしました。以前一度授賞式の司会を務めたこともある宮沢さんでもやっぱり緊張するというのですから、この一言を聞くとホッとしますよね。また「普段汗まみれになって働いているスタッフの方が綺麗な格好をして受賞したりする姿を見るのは嬉しかった」とスタッフ思いの優しい一面ものぞかせていました。

 宮沢さんは「セリフという言葉がない分、お互いの気持ちのやりとりは自分の中で試行錯誤を重ねました。二人で空気として作って行くシーンが結構多かったので、セリフとしてはっきりとあるものじゃないものを探りながらやっていくのは面白かったし、大変でもありました」、「京都弁はコマーシャルとかで喋ったことはあるんですけど、芝居の中で喋るのは人生の中で2回目。亡くなられた市川崑監督が撮って下さった『四十七人の刺客』ぶりでした。大変厳しい先生がいて、一語一句指導されて苦労しました」と役作りについて語ってくれました。加瀬さんが「監督の顔よりも方言指導の方の顔を覚えている」というように、方言には二人とも相当苦労したようです。

メイクルームでの作戦会議

 思い出のシーンについて聞いたところ、宮沢さんは「本当にワンシーンワンシーン大事にしながら作っていったので、ここが一番というのはシーンに対して失礼な気分になる」という前置きの後「加瀬さんと二人で監督がびっくりするようなアイデアを毎回メイクルームで考えたりしていたのですが、それの作戦会議がとてもうまくいったシーンは、あんぱんを食べるシーンです。普通に言ったら悲しいシーンなんですけど、滑稽なところに悲しさが出たらいいねと話し合ってあのシーンができました」。監督はみんなの意見の中で一番いいものを使う柔軟な監督だったそうで、宮沢さんもアイデアの出しがいがあったということを語ってくれました。

 加瀬さんが「宮沢さんが本来持っている明るさにずいぶん引っ張られて僕は進んでいったような気がします」と相方を褒めると、宮沢さんが照れながら「解放的な気持ちでやらせてもらえるのは支えてくれる加瀬さんがいたからです」と褒め返す微笑ましい光景も見られました。

 「今まで私は瞬発力が一番大事だと思っていたのですが、この役を演じて、何かを愛し続けるとか大事にし続けるとか、そういう持続力を持つことは、瞬発力よりももっとエネルギーがいることに気付きました。私がおばあちゃんになったとき、大事にし続けたものをいくつ持っているのかと考えました」と、宮沢さんは映画を通して学んだことも多かったようです。

「宮沢りえは『ランボー』!?」

加瀬亮さん

 映画館で最後に見たい作品は何かという質問では、加瀬さんはなんと『マルメロの陽光』をあげました。ビクトル・エリセ監督の映画をあげるとは、加瀬さんもかなりの映画通ですね。

 宮沢さんは『ローマの休日』をあげました。活発な子だったので『ランボー』とか『ロッキー』(2作ともスタローンですね)が好きだったのに、母のすすめで『ローマの休日』を初めて見たとき「こんな世界があるのか」、「こんなに綺麗な人がいるのか」と物凄い衝撃を受けたそうです。加瀬さんは「宮沢さんには『ぼくらの七日間戦争』をあげて欲しかった」、「翌日のスポーツ紙に「宮沢りえは『ランボー』」という見出しが載らないかと、そればかりが心配です」と冗談を言って笑わせました。ちなみに『ローマの休日』は同映画館の最後に上映する作品のひとつに投票で選ばれています。

 加瀬さんは「映画館がまたひとつ閉じるのは寂しいです。昨日友達からポラロイド600フィルムがもうすぐ無くなると聞いて、自分の好きなものがどんどん時代の中で無くなっていくというのはすごく感じています。でもその先を歩いていかなくちゃいけない。形が変わっても大切なことは大切なこととして間違いなくあると思うので、それを皆さんと歩んでいければと思います。映画を通してまた皆さんとお会いしたいです」と、最後に厚木の映画ファンの皆さんにメッセージを送りました。

 『オリヲン座からの招待状』は小さな映画館を守る愛の物語です。まさに映画館の最後を締めくくるのにふさわしい作品といえるでしょう。二人のサインが書かれたポスターは閉館まで映画館内に展示されます。映画のDVDは4月21日発売となっています。(2008/2/16 写真・取材:澤田)

ポスターにサインを入れました