戦場のアリア
最前線で敵同士固い友情で結ばれた兵士たちの感動の実話
『戦場のアリア』
フランス・ドイツ・イギリス合作
ダイアン・クルーガー主演
2005年フランス映画動員第一位
販売元: 角川エンタテインメント
映画ファンには、字幕スーパー派と吹き替え派の2つのタイプの人間がいる。僕はそのどちらでもないので、どちらか一方を擁護しようとは考えていないが、この映画に関しては、吹き替え派の方に、ぜひ字幕スーパーで見てもらいたいと思う。それだけ「言葉」の力が重要な意味をもっていると思うからだ。
この映画は、第一次世界大戦の実話を題材にした戦争映画である。第一次世界大戦には戦場にも秩序のようなものがあった。戦場がボクシングでいうリングのようなもので、兵士たちはリングの上で正々堂々と戦っていた。この物語は前線で戦っている英・仏・独の兵士たちの姿を描いている。
この映画が心を打つのは、英・仏・独、それぞれの兵士たちをまったく同じ立場から描いていることだ。敵の塹壕は自分の目と鼻の先にある。彼らはこんなにも近くで戦っていたのかという感じである。映画の中に出て来る猫が象徴的。この猫はまったくの中立で、フランス軍とドイツ軍の塹壕を行き来して、それぞれの兵士たちにペットとして可愛がられている。猫にとっては敵も味方も同じなのだ。目覚まし時計も同様。毎朝フランス軍の目覚まし時計を聞いて、他の軍も目を覚ましている。敵味方同士、同じ場所で、同じ状況の下、生活を共有している様子に妙に臨場感を覚える。
昔『素晴らしき戦争』(リチャード・アッテンボロー監督)というミュージカル映画があった。『素晴らしき戦争』の中で最も印象的だったシーンは、敵同士が前線の中央で「調子はどうだい?」と一緒に酒を酌み交わすシーンである。このシーンを1本の長編に肉付けしたものがこの『戦場のアリア』だ。
クリスマスイブの夜、今日くらいは羽目を外してもいいだろうと、歌を歌っていたら、隣の敵国もその歌にハモってくる。お互い殺し合い、憎しみあっている中なのに、その両者が一緒に歌を歌うところが何とも感動的だ。「きよしこの夜」は万国共通なんだなあ(他に英スコットランド民謡の「蛍の光」のバグパイプ演奏などが効果的に挿入される)。音楽が人の心を変えるという意味では『戦場のピアニスト』、『善き人のためのソナタ』と同じ感動を覚える。
うちとけ合ってからは、戦場で敵同士サッカーに興じたりトランプをして遊んだりしている様子がコミカルに描かれる。これが実際にあったことだから面白い。もしも僕がその場にいたら、同じことをしただろう。これは人間として、しごく当たり前の行動である。人間が人として当然のことをやっているからこそ、この映画には心に響くものがある。
見てもらいたいのは、英・仏・独の将校たちが酒を酌み交わすシーンだ。将校たちが「ダンケ」、「メルシー」、「サンキュー」とそれぞれのお国の言葉でお礼を言うところが胸にぐっとくる。この映画には英語、フランス語、ドイツ語3語が入り乱れている。それぞれのアクセントの違いが鑑賞者の聴覚を刺激している。言葉というものの力強さを感じる映画である。ちなみに原題の「Joyeux Noel」とは「メリークリスマス」という意味である。(2008/2/13)