第3夜『ハウス・オブ・ザ・デッド』

史上最低最悪の駄作と言われたこの映画を正当に評価してみよう。

 これは『バイオハザード』に便乗したゾンビ映画として紹介されたが、『バイオハザード』が大成功したのに、こっちはまったくもって話題にならなかったので、超B級の内容なのかと思ったら、意外に面白かったのでびっくりした。僕はこっちの方が『バイオハザード』よりもホラー映画のお約束事をよくわかっている気がした。この手のホラー映画は第一級の映画会社が大金を出して作るよりも、B級会社が作った方がいろいろな意味で興味深いと、改めて実感させられた。「史上最低の映画」と言われたりホラーファンにもそっぽを向けられ、某誌でもワースト1に選ばれているが、僕はかなり楽しめたよコレ。続けて2回も観ちゃったもんね(これが面白いと思う僕の感覚ってもしかしたら壊れてるのかなって本気で心配しちゃったけどさ・・・)。だって続編ができたほどの映画だし、一応は興行的には成功したみたいだし(日本では美少女アイドルがPRしてた)、ドイツっぽい雰囲気もイケてる方だと思うのだが。

 ホラーぽくないとか全然怖くないとかそんなことをいう人には絶対に見せたくないが(そもそもホラーは怖ければいいわけではないのだし、これは怖がらせるために作ったものでもないから)、B級映画フリークには絶対オススメ。つっこみどころ満載だけど、ウーヴェ・ボル監督は本気で作ってるし、仕事を投げた感じはしない。出来はどうであれ、彼の気合いのこもったこの力作をけなす気にはなれない。とまあ、あまりここで期待させるのも良くないから、この先は映画を観て本当に気に入った人にだけ読んでもらいたい。

 これも元ネタはテレビゲームだが、テレビゲームを映画化した作品としては、最もそれらしい出来栄えではないだろうか。『バイオハザード』のようにゲームの設定をただ借りたのではなく、ゲーム本来のカタルシスを忠実に映像化しようとしている姿勢がそこにはうかがえる。ズバリそこがこの映画の目的でありテーマであり愛だと思う。人生で映画を観た総時間と、ゲームをプレイした総時間ではゲームの方が長くなってしまうこの僕が言うんだから本当だよ。

 『ハウス・オブ・ザ・デッド』は僕が世界一のゲームメーカーと信じて疑わないセガが開発したゾンビゲームだ。襲いくるゾンビたちを迎撃するシューティングゲームで、撃たなきゃやられるというハラハラ感の中、ゾンビの体に弾丸をあてると、体の各部が破裂して飛び散るのが気持ちよく、男女でできるデートゲームとしてゲーセンで大ヒットしている。発売当初は描かれている血は赤かったが、それが問題になって、発売後すぐに緑色に描き直され、ニュースでもちょいと話題になった。ショットガンにマシンガンに武器を変え品を変えつつも、このゲームはいまだにロングラン中なので、気になった方はぜひゲーセンまで足を運んでもらいたい。

 若者たちが一人また一人と殺され、一番知的な美女だけが最後の方まで生き残るあたり、ジェイソン映画みたいに定石通りである。前半はまさに80年代の王道。「あの島は死の島だ。悪いことはいわないから行くな」とコワモテの小男に止められながらも、ちゃらちゃらした学生たちがお構いなしに島まで行くのはお約束通り。パーティ会場に集まり、ビールに酔いながら、ピチピチのエロい金髪の女学生たちが次々とぷるんぷるんのおっぱいを露出する。ナイス。待ってました! まったくこれは今時珍しいほどお決まりの見せ方である。おまけに劇中ロメロにも言及して(夜・朝・昼・夕の4語だけでロメロを表す技アリ)、ホラーファンのつかみはオッケーだったはず?

 中盤でゾンビがゾロゾロ出はじめて、生き残った若造たちが物怖じせず急に一丸となって戦うあたりから、この映画ならではの独自のテイストが発揮されて面白くなる。「武器無しでどうやって戦う」と話していたら、またお約束のように小さな木箱の中から箱よりもでかい重火器がごろごろと。ご一行がマカロニウエスタンよろしく横一列に整列して煙の中から出てきたときにはかなり拳にぐっときたよ。大好きだなあこれ。監督の自意識過剰ぶりが素敵。頭空っぽのギャルが急に回し蹴りの達人になったり、皆ありえないほどにパワーアップするのも好き。銃を撃つときの主人公の顔も怖くて良い。カメラがぐるぐる回るところはちょっと『マトリックス』風だけど、そのしつこさに監督の映画に対する熱愛を感じる。カメラの後ろで「いいぞ!」と叫びながら興奮に震えている監督の姿が浮かんでくる。

 ゲームと同じく「銃撃」が見どころ。とにかくゾンビを銃撃しまくる。軽く1000発は撃ってるだろうな。肉が破裂し、派手に飛び散りまくるスライム状の血・血・血。スプラッターという言葉を思い出す前に場面はめまぐるしく変化。しかも『男たちの挽歌』ばりに弾は強力で、それも百発百中ときたもんだ。気持ちいいくらい思い切り撃って撃って撃ちまくるその感覚はまさにテレビゲームを彷彿とさせ、「あ、同じだ」と思わずうなずいてしまう。そりゃそうだろう。監督自身がかなりのゲームオタクらしく、他にもゲームをネタにした映画ばかり撮ってるらしいのだから。ゲームに理屈はいらない。そこにゾンビと銃撃さえあれば気分は爽快。

 ところどころで実際のゲーム画面がMTV風に挿入されているのは、知らない人にはまったく邪魔で、いかがなものかと思ったが、これは恐らく製作の裏側でスポンサーのお金が相当動いているに違いない。僕は無類のセガキチだが、このセガの露出ぶりには正直がっかりした。パーティー会場にはただ「SEGA」としか書かれていない。ご一行が1000ドルをはたいてまで行きたいと願ったこのパーティー。いったいなんのパーティーだよとつっこみたくなる。僕も3000本以上映画を観たが、映画の中でここまで無意味にでかでかとセガのロゴが掲げられている映画は初めて見たよ。当時のアミューズメント第一開発部の社長もエキストラ出演しているとのことだが、この映画ってもしかしてセガが「作らせた」ものなのか?

 ロン・ハワードの弟のクリント・ハワードが出ていたり、実は意外にキャスティングが豪華だったりする。カーク船長役のユルゲン・プロボノフはもう大御所。ドイツ映画界の名優中の名優がこんなところに出ていたなんて。でもこんなB級映画でも無茶苦茶かっこいいんだよな。ありがちな麻薬ではなく「キューバ産」の葉巻を隠し持っているところが気に入った(僕もハバナシガーは大好きなもんですから)。葉巻を吹かしながら、「お出ましか」という感じで無言でやおらゾンビを銃撃するこの落ち着きぶり。しびれるねえ。かっちょいー! もうこれだけでもB級映画ファンのハートをわしづかみ(って僕だけ?)。彼は『U・ボート』でも艦長役を演じていたが、『U・ボート』を思わせる格好で出ているのが嬉しい。映画の中で彼の事を「U・ボートの艦長か?」と言うシーンがあるのもうまいシャレである(映画通にしかわからないマニアックなギャグね)。まじでユルゲン渋いよ。(2008/2/9)