第1夜『サンシャイン2057』
輝きを失った太陽を救うために旅立った8人のクルーたち
今週から新連載がスタートした「SF映画夜話」。ネタバレありのコーナーなのでその点はご注意を。この第1夜にふさわしい作品はダニー・ボイル作『サンシャイン2057』である。最近では珍しく、宇宙空間を舞台にした、もろにSFっぽいSFである。タイトルに『2057』なんてつけられてるから、まるで『クライシス2050』みたいだけど、とりあえず年号らしき数字を付けたことで、さらにSF臭さは強くなった。
日本の誇れる国際スター真田広之氏も出ていたこともあって、ちょいと話題になった作品だが、どうも一般人には受けなかったのか、埋もれてしまった感もあった。僕はこれは大好きで、初めて見たときからその世界に一目惚れして続けて2度も見たくらいだ。『28日後...』にこれ。僕は一気にダニー・ボイルが好きになった。先日また見たくなったので、もう一度見直してみたら、やっぱりこれがいいんだなあ。惚れ惚れしちゃいます。でも友達はやんわりとつまらないといっていたので、これは僕みたいなSF野郎でなければわからない良さなのかもしれない。僕ならその年のベスト1に挙げてもいいのだが。
この物語は、本来の輝きを失ってしまった太陽を復活させるため、8人の乗組員を乗せた宇宙船が太陽まで「イカロス2号」という宇宙船に乗って航海する話だ。これぞSF。イカロス(蝋で作った翼で空を飛ぶが神に近づこうと高く飛びすぎて太陽の熱で蝋が溶けて死んだ神話の人物)という名前からしてニヤリ。
もう序盤からいきなり航海は始まっている。「これこれこういうことでさあ宇宙に飛び立つことになったぞ」という他のSF映画にありがちな長い長い前置きを一切省いたこの潔さ。『ザ・コア』や『アルマゲドン』とは比較にならないこのSFロマン。しかも登場人物は終盤を除いてずっと8人だけである。宇宙船以外の場所を描いたシーンもなく、限られた空間、限られた登場人物だけで見せ切るこの面白さ。登場人物も全員特徴的で、日光浴が好きで次第に日焼けがひどくなっていく人や、いつも酸素のことばかりを気にする人など、よく人物像が描かれていると思う。
僕をときめかせたのは、その宇宙船の外観だ。太陽光とそのシルエットのコントラストも最高。本当にゾクゾクするほどかっこいい。いかにも光線が出てきそうな気取ったかっこよさじゃなくて、科学的な格調をたたえたようなかっこよさである。これはCGではなく美術で見せるSFだと思う。僕は『2001年宇宙の旅』のディスカバリー号を思いだした。それくらいのゾクゾクを感じた。恐らくダニー・ボイルも多分に『2001年』を意識していると思われる。
宇宙船の船体の角度がわずかにズレたことで船体が太陽光で損傷してしまうあたりがかなりマニアックなところを突いていると思う。だいたい太陽を相手に悪戦苦闘する映画なんて初めてみたよ。科学そのものをこうしてサスペンスにまで昇華させているあたりは、まるでH・G・ウェルズやアーサー・C・クラークの科学小説みたいで、SF好きにはたまらないものがある。
宇宙船の内部設備も気に入った。思わずため息がでたほどだ。やはり船内ももっともらしい科学的な見地から設計されている。船内で植物を育てて、酸素も食料も自給自足にしているところが素敵。またその美術セットが綺麗なんだわ。いいなあ。この映画は、結構SFマニアをうっとりとさせるシーンが多い。僕が最もじんときたのは、序盤で地球の家族に最後のメッセージを送るシーン。最後というのは、電波が地球に届かなくなるから最後ということである。登場人物を完全に外界からシャットアウトさせるための科学っぽい裏付けがまた面白いが、このときのメッセージの内容がこれまた泣かせる。この時の背景の色と、キリアン・マーフィの表情と、アンビエント風の音楽がまたぐっとくる。この映画は音楽が本当に良い。
船内には「地球室」なるものがあるが、これも良い。じんとくる。バーチャルリアリティで地球に似た風景を見せるという装置で、他のSF映画でも見慣れたギミックだが、しかし本作のそれには他の映画にはない得もしれない感動を覚える。映画を見ている自分でも本気で地球室に入ってみたいと、そこまで言わせるものがあった。展望室から眺める水星の映像にも同様に感動した。
だから後半から余計なサブリミナル効果が入ったり、アンドロイドか悪魔なのか、なんなのかよくわからない敵が現れて『エイリアン』みたいな映画になってしまったのが悔やまれる。やたらと画面に「もや」がかかり、意味がわからないほどおかしな映像になった。僕としては最初から最後まで前半の味をキープしておいてもらいたかった。こいつが出なかったとしても作品としては十分見せるものがあっただけに実に残念だ。
しかしラストシーンでは、その不満も吹き飛ぶほど感動させられた。僕はこれは主人公が死後に見た世界だと解釈した。なんと美しいラストシーンか。自分は死に、神となり、地球は救われる。これほど崇高なハッピーエンドは珍しい。(2008/2/4)