下宿人 (作品紹介)

The Lodger - A Story of the London Fog

★★★★1/2

<イギリス/1926年/黒白・サイレント/サスペンス>
製作マイケル・バルコン、カーライル・ブラックウェル
監督アルフレッド・ヒッチコック
原作ベロック・ローンズ夫人/脚本:エリオット・スタナード
撮影:バロン・ベンディミリア
出演:イボー・ノベロ、ジューン、マリー・アールト、
アーサー・チェスニー、マルコム・キーン

 色々な世界でスリラーの神様として崇められるようになるヒッチコックの、最初のサスペンス映画。この作品からすてすでに天才的カメラワークを見ることができる。F・W・ムルナウを代表とするドイツ映画の影響である。
 これは、ロンドン中を震え上がらせた「切り裂きジャック」の映像化で、映画は若い金髪の美女が次々と殺されていく描写からスタートされる。このとき、同じ字幕を繰り返し出したりしており、なかなか面白い。不気味な下宿人が登場してからは、ヒッチはその下宿人の行動をわざと殺人に結びつけることに徹している。なぜかその下宿人は、殺人犯人と同じ格好でドアのそばにぬうっと現れ、自分の部屋に飾ってあった金髪女性の絵を伏せてしまう。観客はこの1シーンだけで、この下宿人を怪しむだろう。ヒッチは彼がドアのノブを触れるだけの小さなアクションでも、女を閉じこめるのではないかと疑いぶかく見せ、ただ彼が火かき棒を握っただけでも、女が殴り殺されるのではと、いかにも殺人の匂いを漂わせるように見せている。このときからヒッチはいたずら好きだったというわけだ。
 また、多重露光の使い方も見事で、下宿屋の女将さんが天井を見上げると、揺れる電灯の向こうに下宿人の歩く姿が透き通って見える。実に巧い。この作品は公開当時、サイレント映画ながらも「音が聞こえてくる」と絶賛され、英国映画の最高傑作と謳われた。

 個人的に、「疑惑の影」「サイコ」、そしてこれが僕のお気に入りのヒッチ作品である。

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