女相続人 (作品紹介)

The Heiress

★★★★1/2

<アメリカ/1949年/115分/黒白/人間ドラマ>
製作・監督:ウィリアム・ワイラー
原作:ヘンリー・ジェームズ/脚本:オーガスタ・ゲーツ
撮影:レオ・トーバー/音楽:アーロン・コープランド
出演:オリヴィア・デ・ハヴィランド、モンゴメリー・クリフト、ラルフ・リチャードソン

注意:ネタばらしをしています。

●評価
 ヘンリー・ジェームズの「ワシントン広場」の映画化だが、ワイラーの作品では最も巧妙な出来映えである。心理描写の妙はワイラーの作品の中でも一番だろうし、この作品のヒロインを演じたオリヴィア・デ・ハヴィランドの演技も、ワイラーの全映画の出演者の中でも最良のものかもしれない。それだけ驚ける作品。
 何を隠そう、僕もこれを見てワイラー崇拝者になったのだ。

●ストーリー
 時は19世紀中頃。ある裕福な医者の娘キャサリンは、容姿の悪さから、内気な性格で、社交性は全くなかった。ダンス・パーティの日もすぐに男たちから振られ、ヤケでお年寄りと踊ったりする有様だった。
 が、そんな彼女の前にモリスという美男子がふと現れる。彼は貧乏ではあったが、彼女のことを気に入ってくれたただ一人の男性だった。二度と恋愛ができないと思っていたキャサリンは「ついに」と大喜び。しかし、父は二人の結婚を許さない。モリスが財産目当てで言いよったに違いないと考えていたからだ。でもキャサリンはモリスを信じていた。
 そんなキャサリンを見て苛立つ父はついに本音を吐く。「おまえみたいな何も取り柄のない女に、あんな男が恋するわけないだろう。金目当てなのだよ」。父は愛する妻の死と交換にもらったこの娘を好きにはなれなかった。キャサリンはその言葉に激しいショックを受け、父を憎むようになる。
 やがてモリスが駆け落ちをしようと誘いに来るが、モリスはキャサリンが裕福な父と縁を切ったことを知って、キャサリンの前から消えてしまう。哀れなキャサリンは騙されていたのだ。そして、キャサリンは、自分を侮辱した父とモリスに復讐をする・・・・・。

●解説
 醜い女性の悲しい恋愛と愛憎を描いた作品で、とにかくワイラーの心理描写が冴えている。
 特にモリスとキャサリンが駆け落ちを誓ったところからのシークェンスは完璧で、その時のオリヴィア・デ・ハヴィランドとモンゴメリー・クリフトの演技も見事の一言である。
 次にキャサリンがモリスの迎えを待つ場面、これはこの作品で最も優れた演出である。観客にはモリスが”財産目当てなのか”、”本当に恋しているのか”、知らされていないため、モリスが来るのか来ないのかは我々にもわからない。ここでサスペンスが盛り上がり、オリヴィア・デ・ハヴィランドの表情も目覚ましく、観客もキャサリンと同じ立場になってモリスを待つことになるのだ。
 やがて、次のショットに変わり、窓から光が射し込める。そして、階段を上がってくる、悲しみと憎しみで汚れたキャサリンの姿が映され、観客は何もかも察するのだ。
 ラストもこれと同じアングルで、実に対照的で素晴らしい。キャサリンに残った幸せは何もなくなるという悲劇までも描かれているのだ。

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