マルコヴィッチの穴 (レビュー)

Being John Malkovich

★★★1/2
<アメリカ/1999年/コメディ>
監督:スパイク・ジョーンズ
出演:ジョン・キューザック、キャスリーン・キーナー、キャメロン・ディアス、
ジョン・マルコヴィッチ、チャーリー・シーン

 

●だまし絵のような面白さ
 かつてなかった映画。それは広告どおり偽りなし。こういう奇抜な映画は、出来はともかく一見の価値があるので、ぜひ皆さんにも見てもらいたい。この秋一番のおすすめである。
 この映画は実に深い。考えれば考えるほど、その深さには圧倒させられる。一言で言えば、「入るとマルコヴィッチに変身できる穴」の話であるが、たかがそれだけで、ここまでストーリーのアイデアが膨らむものかと、作家のイマジネーションのキレっぷりにはたまらないものがある。映画のセンスも凡人離れしていて、何かだまし絵を見せられたような映像感覚である。天井の高さが半分しかない、7と1/2階なるフロアーが舞台になっているところから、この映画は全体的に別世界感覚にあふれている。
  

●別世界感覚はしだいに複雑化する
 やがて主人公は7と1/2階で、奇妙な穴を見つける。思わず入ってみると、彼は俳優のジョン・マルコヴィッチの脳の中に入ってしまうのである。ずっと漂っていた別世界感覚が、ここでいっきに加速する。
 主人公は人形師であり、人形になりきることができるいわば役者である。
 僕は以前どこかで聞いたが、役者というものは、他人になりたいという願望がひときわ強いらしい。
 この映画ではジョン・マルコヴィッチという実在する俳優をそのまま映画に登場させて、一心同体にしてしまうという、想像を絶する芸当に挑戦している。これが少しフシギな感覚で、ここから哲学的な面も出てきて、自分とは何か?他人とは何か?など、色々と我々に考えさせてしまうが、それ以上にタブー的といえる複雑かつブラックな展開に多いに刺激される。男と女の性別を超え、しかも個人という枠からも離れて複数の人物がマルコヴィッチの目となり、オルガスムスに達する内容は、究極の性倒錯である。
 ラストシーンは凄い。自己の存在証明をするために自分の肉体を捨てた主人公が、結局アイデンティティもクソもなくなってしまう。この末路の限りない孤独感は、ゾッとするほど鳥肌がたった。
 

最後に一言:前後左右を鏡に囲まれたような気分

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