ザ・セル (レビュー)

The Cell

★★★

<アメリカ/2001年>
監督:ターセム/出演:ジェニファー・ロペス、ヴィンス・ヴォーン

 

●ファッション美術館にありがち
 ロペス姉ちゃんが、ハイテク機器を使って猟奇殺人犯の精神の中に入っていく映画で、精神世界のシークェンスにはストーリーがなく、刺激的で抽象的な映像を次々と見せられる。この映像がアントワープかどっかのファッション美術館にありそうなシュールな映像で、馬の生きたままの解剖図などが飛び出して、何だかMTVを見ている気分になる。
  

●スリルを映像だけで見せようとする
 この映画はストーリーは大してよくできていない。スリル映画であるのだと思うが、展開をスリリングに見せているつもりでも、内容が現実離れしているので、ストーリーだけではその怖さが伝わらない。となると、この映画のスリルの伝達は、映像に頼ることになる。
 ターセム監督は、無意識の感覚に訴えるべく、視覚的恐怖を演出している。例えば、真っ白の被害者、強調された遠近感、何もない空間などの映像だ。最初のうちは、この見慣れない映像にとても見応えを感じるだろう。
  

●刺激を与えようとして刺激がなくなった
 しかし、FBIの男が精神世界に進入してくる後半から、内蔵をえぐったり、血がふきだしたり、スプラッター映画よりもたちが悪いグロテスクな映像が増えてきて、もっと不思議な映像を期待する鑑賞者としては、気色悪いだけで新鮮味に欠けるアホらしい映像の羅列に失望してしまうに違いない。しかもストーリーもつまらんから救いようがない。どんどん映像の魔力は下降していく。アートっぽい刺激的映画を作ろうとしていながら、空回りして、水準よりも程度の低い映画に落ちぶれてしまった。
 まあ、この程度の出来でも、珍種の映画を撮ろうとしたターセムの意気込みは、称えるべきことだ。映画はストーリーこそ第一と思っている人たちには、映像の重要性をわからせるチャンスになったことだし。でもこの映像に驚いてくれた人がいたかどうかは、とても疑問なのだが。

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