メトロポリス (レビュー)

★★★★

<日本/2001年>
監督:りんたろう/脚本:大友克洋/原作:手塚治虫/出演:富田耕生

 

●3人のエッセンスが溶け合う
 あの手塚治虫先生の名作「メトロポリス」を、「AKIRA」の大友克洋が脚色、「銀河鉄道999」のりんたろうが監督したのだから、当然のことすげえ映画が出きてしまった。3人らしさがそれぞれ表れていて、マニアにはたまらない中毒的内容である。3人の「ワザ」は相変わらずいつもの調子のままだが、上手い具合に3人のエッセンスが溶け合って、ひとつの新しいアニメーション映画へと進化している。
  

●手塚キャラクターを用いて破壊活動を
 しかし、手塚治虫はこの世にはいない。だから大友克洋とりんたろうが手塚漫画をどう料理したのかを問題にすべきだろう。
 僕はこう解釈した。この映画は大友克洋とりんたろうが描きたかったSFの世界観を、手塚治虫の世界観を借りて形にしたものだと。
 このアニメには沢山の手塚キャラが登場する。原作には登場しないロックまで出てくる。もちろんロックは「ロック冒険記」以来、ケン一とは対照的に活躍した手塚漫画の常連キャラである。彼の他、この映画には手塚漫画には欠かせないモチーフが使われている。あの可愛らしい太脚もちゃんと再現している。
 ところが内容は大友克洋とりんたろうの世界そのもの。手塚キャラを利用して銃撃戦を繰り広げ、大友らしい様々の破壊活動をやってみせている。あの四頭身キャラゆえに、こういうシリアスなモンタージュ描写が、かなり新鮮に見えて、むしろコワイ。愛らしいロボットが銃弾を浴び、粉々になる映像など、とてつもない雰囲気だ。子供向けの漫画が、オタクにしかわからないアーティスティックな映像詩に生まれ変わっている。究極の脚色である。
  

●映像を重視することの大切さ
 映画の良さは映像とストーリーで決まるといってよい。どちらとも重要だが、どちらかが欠けていても決して駄作とは言えない。「メトロポリス」にはストーリーらしいストーリーはない。しかし、映像らしい映像がある。この映画は映像を重視したイメージ派の映画なのである。その意味では、押井守の「アヴァロン」と同じく、イメージの大切さを認識させてくれる映画として、僕も点数は多めにつけた。
 この映画はとにかく広角の映像に目を見張る。描き込みの細かさにきっと驚くだろう。群衆がゴマ粒になるまでスクリーンいっぱいに広がる未来都市の3DCG映像は、何よりも視覚的な刺激を求めていた映画ファンにはたまらない快感である。CGとセル画の合成も、テクスチャの質感は全く違うのに、違和感がなく、かつてない不思議な感覚である。周囲に目を向けてみると、本当に芸が細かいことがわかる。じっくり見れば見るほどその映像は奥深く、ただただ恐れ入る。
 初期手塚漫画の特徴として、コマいっぱいに沢山の人々を騒々しく描き込むスタイルがよく見られたが、この映画ではまさにそれをやっている。沢山の人々たちを画面のあちこちに配置させて騒々しくアクションさせているのだが、こういうところに手塚漫画らしさが復刻していたのだ。だてに手塚漫画の世界を借りていたわけではなかった。そこにりんたろうのこだわりがある。 

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