トロイ (レビュー)

ペーターゼンはサービス精神旺盛
ペーターゼンはドイツ時代の方が面白く、ハリウッドに進出してからは、名無しの職人監督的な扱いを受けている感じだったが、「トロイ」はペーターゼン初の歴史スペクタクルであり、「U・ボート」以来久しぶりに「ペーターゼン」という作家性をうかがわせる面目躍如たる傑作である。皮肉にも、映画館のビッグ・スクリーンの特性はそれほど活かしきれておらず、大人数の戦争シーンでは、かえって粗が目立ってしまい、デジタルの弱点に屈した感がある。それでもこの作品を傑作と讃えられる理由は、登場人物たちの愛と憎しみがよく表れていたからだ。ブラッド・ピットの誇張された無敵ぶりは、いかにも60年代テイストの人物像である。ピーター・オトゥールは久しぶりの大役であるが、老いを演技の糧とし、「黄昏」のヘンリー・フォンダに匹敵する名演技を見せてくれた。60年代を再現するブラピと60年代を生きた巨人オトゥールの会話は、この映画で最も見応えがある。
ペーターゼンは随所にファン・サービスらしきことをやっているようで、観客を限定する歴史ものにして、万人受けを狙っている感じである。実際ならばチャールトン・ヘストンのような濃厚なマスクの俳優がやるところを、ブラッド・ピットというスターに任せたのは、ある意味無謀とも思えるが、これは彼のエキセントリックな部分をうまく利用した計画的なキャスティングだったと捉えるべきだろう。正々堂々と戦うくせして、ボスには反抗。さらに<トロイの木馬>という卑怯な反則を使うきまぐれさは、彼のような俳優が演じてこそ意義がある。
オーランド・ブルームもでてくるが、彼に弓を持たせるあたりもペーターゼンのユーモアが利いている。エリック・バナは一番の儲け役で、庶民的なマスクにして、一国の王子というところに愛着感がある。バナとブラピの対決では、バナの方を応援したくなるのもペーターゼンの思惑通りといったところ。ひどいのは女優たちだ。エリザベス・テーラーのような存在感があれば良かったのだが、彼女たちにこの大作を支えきれる器があるとはとても思えず、やはりペーターゼンの先行きにいちまつの不安がよぎる。

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