戦場のピアニスト (レビュー)

一人称の視点だからリアル
民間人の視点からホロコーストの実態を描き、人間の尊厳を謳った秀作。
この映画はなぜこうもリアルなのか。実話を元にしているとはいえ、もしポランスキー以外の監督が作った場合、これほどリアルな映画にはならなかったのではないか。ポランスキーは「一人称映画」の大家であり、ほとんどのシーンを主人公の視点で描くことで知られる監督である。その彼が、そのスタイルを維持したまま、自分の国のことについて描くわけだから、リアルにならないわけがない。
それまでの戦争映画が、戦車や兵士達の表情を目の前から接写することで、ダイナミックな映像を作り出していたのに対し、ポランスキーはそれを遠くの建物の窓から覗くように手持ちカメラで撮影した。戦車もレジスタンスの連中たちの表情も遠くてよく見えない。映像的迫力には乏しいが、しかしこちらの方が観客のメンタルな部分に確実に働きかける。それまでの戦争映画では真面目に描かれることがなかった食料問題についても、廃墟の台所をこそこそあさりまわる主人公の目線から描かれており、じわじわと鑑賞者を引き込んではなさない。その徹底したリアリズムが結果パルムドールをもたらしたのだと思えば、納得である。

オリジナルページを表示する