ロスト・イン・トランスレーション (レビュー)

日本人も納得するギャグ・スケッチ
「テンション」という言葉は日本人の9割が使い方を誤っている。「クロース(接近)」と「クローズ(閉じる)」はスペルは同じだけど意味は全然違う。日本人は「L」と「R」を区別しない。などなど、日本人の言葉の誤解を徹底的にカリカチュア化して1本の作品にした怪作。これについては、ソフィア・コッポラの着眼点のユニークさと、主演二人の演技を評価する。
重要なのは、あくまで言葉の違いをメイン・テーマとして真っ向勝負に挑み、ヒューマン・ドラマとしての要素が二の次になっていること。実に思い切った構成である。日本文化を目の当たりにして、たじたじになる様子を、数え切れないほどのエピソードの羅列で次々と展開。ひとつひとつのスケッチが、まるで四コマ漫画のようなショートな落ちで、日常的な納得のいくおかしみを描いて愉快である。選挙のシーンなど、一時的な行事についてもちゃんと観察していることも感心である。また、渋谷のスクランブル交差点の映像は地形効果だけでただならぬ迫力を感じた。
主演の二人は文句なしの適役。二人の孤独感を、日本文化を利用して大いに笑い飛ばしているのが見所だが、とくにカラオケボックスで歌うシーンは洋画ではまず見られない描写であり、二人のしんみりとした表情がうまい。ロキシー・ミュージックばりのダンディズムを気取るも、ちっともかっこよくなれないビル・マーレーの妙。中年男の倦怠感といわずに、我々一般人みんなに通じる哀歌といえる。スカーレット・ヨハンソンのしぐさは本当に可愛らしい。女優を褒めると安っぽい批評に思われそうで気が引けるが、それでも彼女の愛嬌は高く評価したい。
ウディ・アレンのような自由さがある、私的名作。大好きな一本。

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