ザ・ハリケーン (レビュー)
The Hurricane
★★★★
<アメリカ/1999年/伝記もの>
製作・監督:ノーマン・ジュイソン
原作:ルービン・カーター、サム・チェイトン、テリー・スウィントン
脚本:アーミアン・バースタイン、ダン・ゴードン/撮影:ロジャー・ディーキンス
音楽:クリストファー・ヤング/主題歌:ボブ・ディラン
出演:デンゼル・ワシントン、ロッド・スタイガー、ヴィセラス・レオン・シャノン、
ダン・ヘダヤ、デボラ・カーラ・アンガー、ジョン・ハンナ
ネタをあかしています。
●人生の大半を監獄で過ごしたチャンピオンの物語
アメリカのボクサーで、ハリケーンと呼ばれた黒人がいる。この物語はその黒人の半生を映画化した実話である。
ハリケーンは少年時代に無実で少年院に入れられ、監獄生活を通して大人に成長、その間ずっとストイックに体を鍛え続けていた。
出所してからはボクシング界に華々しくデビューし、世界チャンピオンを2ラウンドでKOさせるなど、驚くべき才能を見せつけたのだが、しかし、再び無実の罪で逮捕され、終身刑の判決を下されてしまう・・・。
●実話だからこそ感動的
ハリケーンについては、日本では人名事典にも載っていないが、アメリカではボブ・ディランのプロテスト・ソングにも取り上げられ、黒人問題も絡んで、名の知られているボクサーである。
彼は人生の半分以上を監獄で過ごしたわけだが、これが何しろ「実話」なのだから、涙なしには見られないものがある。実話だからこそ、登場人物も生きてくる。ハリケーンの人生は、まるでドラマのように残酷で、彼の心境を考えただけでも胸が痛くなる。
前半はアクションも含んだヒューマン・ドラマ風の作りだが、後半からはもっぱら社会派法廷サスペンスみたいな趣になる。前半はすこぶる面白いが、後半が少しだらだらして、見せ場がなく、長さを意識させてしまうが、やはり実話なので、見ている途中から結末が楽しみになってくる。そして期待通りの結末に、大いなる感動を覚えるのだ。
また、映画ではハリケーンだけでなく、ハリケーンの書いた本を読んで人生観を変えた黒人少年の視点からもストーリーを絡め合わせており、感動を2倍から3倍は増大させている。
●デンゼル・ワシントンの演技が圧巻
この映画で、最も注目すべきは、主演のデンゼル・ワシントンの演技である。ワシントンはハリケーンを演じることに前々から相当な自信を持っていて、企画が出た途端に即契約したのだが、彼はもともと伝記映画慣れしてはいたものの、何しろ今回演じるのは肉体派の伝説のチャンピオンなので、生半可な役作りではあのスーパー・パンチは真似できないと思われていただろう。
ところが彼は猛特訓をして、見事にハリケーンに生まれ変わっているのだ。これがもう信じられないの一言しかいえない。ボクシング・シーンでの飛び散る汗のリアリティは凄まじく、俊敏な動き、ぎらついた表情、全てにハリケーンの強靱さを遺憾なく表現している。
ハリケーンのちょっとこだわりの監獄生活は、観察していても興味深いが、獄中でひたすら体を鍛えたり、瞑想するときの真剣な表情を、ワシントンは一人演技だけで相当楽しませてくれる。特に暗い独房で自分で自分に話しかけるシーンは、従来の監獄映画にはなかった心理描写であるが、暗い映像の中に浮き出るワシントンの目つきから、切々と孤独感と空しさが伝わってきて圧巻だ。
同作でワシントンはベルリン映画祭で最優秀男優賞を受賞。当然である。彼のキャリアの中ではまさしく最高の演技だからである。アカデミー賞を逃したことが僕はどうしても納得できない。
★★★★
<アメリカ/1999年/伝記もの>
製作・監督:ノーマン・ジュイソン
原作:ルービン・カーター、サム・チェイトン、テリー・スウィントン
脚本:アーミアン・バースタイン、ダン・ゴードン/撮影:ロジャー・ディーキンス
音楽:クリストファー・ヤング/主題歌:ボブ・ディラン
出演:デンゼル・ワシントン、ロッド・スタイガー、ヴィセラス・レオン・シャノン、
ダン・ヘダヤ、デボラ・カーラ・アンガー、ジョン・ハンナ
ネタをあかしています。
●人生の大半を監獄で過ごしたチャンピオンの物語
アメリカのボクサーで、ハリケーンと呼ばれた黒人がいる。この物語はその黒人の半生を映画化した実話である。
ハリケーンは少年時代に無実で少年院に入れられ、監獄生活を通して大人に成長、その間ずっとストイックに体を鍛え続けていた。
出所してからはボクシング界に華々しくデビューし、世界チャンピオンを2ラウンドでKOさせるなど、驚くべき才能を見せつけたのだが、しかし、再び無実の罪で逮捕され、終身刑の判決を下されてしまう・・・。
●実話だからこそ感動的
ハリケーンについては、日本では人名事典にも載っていないが、アメリカではボブ・ディランのプロテスト・ソングにも取り上げられ、黒人問題も絡んで、名の知られているボクサーである。
彼は人生の半分以上を監獄で過ごしたわけだが、これが何しろ「実話」なのだから、涙なしには見られないものがある。実話だからこそ、登場人物も生きてくる。ハリケーンの人生は、まるでドラマのように残酷で、彼の心境を考えただけでも胸が痛くなる。
前半はアクションも含んだヒューマン・ドラマ風の作りだが、後半からはもっぱら社会派法廷サスペンスみたいな趣になる。前半はすこぶる面白いが、後半が少しだらだらして、見せ場がなく、長さを意識させてしまうが、やはり実話なので、見ている途中から結末が楽しみになってくる。そして期待通りの結末に、大いなる感動を覚えるのだ。
また、映画ではハリケーンだけでなく、ハリケーンの書いた本を読んで人生観を変えた黒人少年の視点からもストーリーを絡め合わせており、感動を2倍から3倍は増大させている。
●デンゼル・ワシントンの演技が圧巻
この映画で、最も注目すべきは、主演のデンゼル・ワシントンの演技である。ワシントンはハリケーンを演じることに前々から相当な自信を持っていて、企画が出た途端に即契約したのだが、彼はもともと伝記映画慣れしてはいたものの、何しろ今回演じるのは肉体派の伝説のチャンピオンなので、生半可な役作りではあのスーパー・パンチは真似できないと思われていただろう。
ところが彼は猛特訓をして、見事にハリケーンに生まれ変わっているのだ。これがもう信じられないの一言しかいえない。ボクシング・シーンでの飛び散る汗のリアリティは凄まじく、俊敏な動き、ぎらついた表情、全てにハリケーンの強靱さを遺憾なく表現している。
ハリケーンのちょっとこだわりの監獄生活は、観察していても興味深いが、獄中でひたすら体を鍛えたり、瞑想するときの真剣な表情を、ワシントンは一人演技だけで相当楽しませてくれる。特に暗い独房で自分で自分に話しかけるシーンは、従来の監獄映画にはなかった心理描写であるが、暗い映像の中に浮き出るワシントンの目つきから、切々と孤独感と空しさが伝わってきて圧巻だ。
同作でワシントンはベルリン映画祭で最優秀男優賞を受賞。当然である。彼のキャリアの中ではまさしく最高の演技だからである。アカデミー賞を逃したことが僕はどうしても納得できない。