カンフーハッスル (レビュー)
笑いが止まらない幸せ心地の2時間
★★★★
Kung Fu Hustle
2004/中国・米
監督:チャウ・シンチー
これは見る前に少し不安があった。チャウ・シンチーの衝撃的な出世作「少林サッカー」は、サッカーという身近なスポーツに、カンフーを組み合わせることが新しかった映画である。ところが、それに続く作品で、チャウ・シンチーはカンフーだけを題材にした映画を作ることを発表した。僕はサッカーの次にいきなりそんな終着点に行って大丈夫だろうかと心配した。前作がサッカーだったから、次はボウリングにするとか、いろいろなアイデアがあったと思うのに(サッカーの前には食の映画も作っている)、あえてネタをカンフーだけに絞って攻めてくるのは、意外さに驚くというよりは、正直言ってネタが切れたのじゃないかと思った。
ところがどうだろう。僕の心配はすべて杞憂(きゆう)に過ぎなかった。僕は映画館で、これほど腹を抱えて大声で笑ったことはなかった。大嘘ぶりがいい。仕事の疲れを忘れさせ、積もり積もったうっぷんをスカッと晴らす快感がこの映画にはあった。映画評論家気取りの人(僕のことです)は、こういう映画をいかにしてコケにするかに相当なエネルギーを使うが、僕はこの映画は、直感で見てそのまま波に乗るのが一番だと考える。観客をハッピーな気分にさせてくれるこの良心的な映画を、どうしてコケにできようか。
出演者は前作とほとんど同じだが、今回はどのカンフー使いも爪を隠している所がミソ。へなへなのオカマが実は物凄いカンフーの達人だったりする。話が進むにつれて次から次へとカンフーの隠れ達人が登場。それぞれ流派が異なり、キャラクター1人1人の戦い方が明らかに違っていて飽きさせない。そして各自が強力な必殺技を持ち、それが大きな見せ場になっている。
チャウ・シンチーがブルース・リーの熱烈なファンであることは有名だが、僕はこの映画から彼のカンフーに対する並ならぬ愛を感じた。好きで好きでたまらないから、もっともっとカンフーの凄さをみんなに見せびらかしたいぞと、自分の熱意を爆発させている。だからその筆致の豪快さときたら、すさまじいものがある。荒れ地の中の集落(豚小屋砦という名のアパート)は、中央広場を囲み込むような吹き抜きのセットになっていて、屋外にして室内的な表現ができて、その地形効果は抜群である。どことなくおとぎ話を思わせるセットでもあるが、このアパートのセットに、チャウ・シンチーのカンフー愛があふれている。
表現は過剰だが、これがオバカ映画にならず、傑作となったのは、乱雑な作りではなく、細部まで演出が行き届いていたからだろう。ただ派手に殴り合っているわけではなく、過剰表現の中にもプラスアルファの小ネタがあり(例えば天高く飛び上がったかと思うと飛んでいたワシに乗っかったりする)、決して適当に描いてはいなかった。
しかし、チャウ・シンチーはここにカンフーのネタを出し尽くしたようにも思える。チャウ・シンチー自身はこれを始発点だというが、次の作品をどう特化していくのか、今後の動向が楽しみだ。
★★★★
Kung Fu Hustle
2004/中国・米
監督:チャウ・シンチー
これは見る前に少し不安があった。チャウ・シンチーの衝撃的な出世作「少林サッカー」は、サッカーという身近なスポーツに、カンフーを組み合わせることが新しかった映画である。ところが、それに続く作品で、チャウ・シンチーはカンフーだけを題材にした映画を作ることを発表した。僕はサッカーの次にいきなりそんな終着点に行って大丈夫だろうかと心配した。前作がサッカーだったから、次はボウリングにするとか、いろいろなアイデアがあったと思うのに(サッカーの前には食の映画も作っている)、あえてネタをカンフーだけに絞って攻めてくるのは、意外さに驚くというよりは、正直言ってネタが切れたのじゃないかと思った。
ところがどうだろう。僕の心配はすべて杞憂(きゆう)に過ぎなかった。僕は映画館で、これほど腹を抱えて大声で笑ったことはなかった。大嘘ぶりがいい。仕事の疲れを忘れさせ、積もり積もったうっぷんをスカッと晴らす快感がこの映画にはあった。映画評論家気取りの人(僕のことです)は、こういう映画をいかにしてコケにするかに相当なエネルギーを使うが、僕はこの映画は、直感で見てそのまま波に乗るのが一番だと考える。観客をハッピーな気分にさせてくれるこの良心的な映画を、どうしてコケにできようか。
出演者は前作とほとんど同じだが、今回はどのカンフー使いも爪を隠している所がミソ。へなへなのオカマが実は物凄いカンフーの達人だったりする。話が進むにつれて次から次へとカンフーの隠れ達人が登場。それぞれ流派が異なり、キャラクター1人1人の戦い方が明らかに違っていて飽きさせない。そして各自が強力な必殺技を持ち、それが大きな見せ場になっている。
チャウ・シンチーがブルース・リーの熱烈なファンであることは有名だが、僕はこの映画から彼のカンフーに対する並ならぬ愛を感じた。好きで好きでたまらないから、もっともっとカンフーの凄さをみんなに見せびらかしたいぞと、自分の熱意を爆発させている。だからその筆致の豪快さときたら、すさまじいものがある。荒れ地の中の集落(豚小屋砦という名のアパート)は、中央広場を囲み込むような吹き抜きのセットになっていて、屋外にして室内的な表現ができて、その地形効果は抜群である。どことなくおとぎ話を思わせるセットでもあるが、このアパートのセットに、チャウ・シンチーのカンフー愛があふれている。
表現は過剰だが、これがオバカ映画にならず、傑作となったのは、乱雑な作りではなく、細部まで演出が行き届いていたからだろう。ただ派手に殴り合っているわけではなく、過剰表現の中にもプラスアルファの小ネタがあり(例えば天高く飛び上がったかと思うと飛んでいたワシに乗っかったりする)、決して適当に描いてはいなかった。
しかし、チャウ・シンチーはここにカンフーのネタを出し尽くしたようにも思える。チャウ・シンチー自身はこれを始発点だというが、次の作品をどう特化していくのか、今後の動向が楽しみだ。