バビル2世 (レビュー)

■崇高にしたつもりでおセンチ

 横山光輝の漫画「バビル2世」のアニメ化作品。
 「バビル2世」は僕の一番好きな漫画のひとつなので、この原作のことについても書かせてもらう。「バビル2世」は善と悪の超能力対決を描いた漫画である。実はこれ、正義の味方は1人+3体だけで、敵も1人+雑魚しかおらず、両者とも電気ショックくらいしか技がない。電気ショックだけで善と悪の1対1の戦いを膨らませて連載していたのである。もちろんその他にサブストーリーもあるが、メインは単純である。だからきっと2時間弱のアニメにも簡単に収まるものだと思っていた。

 しかし違った。僕なら、メインの善と悪の1対1の対決だけを膨らましただろうが、このアニメは登場人物を増やし、サブストーリーをいっぱい盛り込んで、質よりも量で攻めてしまった。そこが本作をくどくて退屈なものにしている。別に原作と違うから面白くないといっているのではないが、ただ主人公が次々と敵をやっつけてそれで終わりというのはあまりにもつまらない。新しい敵が出てくるたびに「またか」と思ってしまうのでる。また、セル画、効果音も使い回しが多く、少しも迫力がない。日本のアニメはこうもレベルが低いものだったのか? やはりアニメでは漫画独特の自由な表現領域に達することができなかった。

 単調になるのを避けるためか、原作にはまったく登場しない女キャラを登場させて、ちょっとメロドラマっぽさを出しているみたいだが、場違いもいいところである。女のところだけ話がのろのろしていて、うっとうしい。
 原作の「バビル2世」は崇高な漫画である。最高のパワーを持つ主人公は恐ろしく強く、敵側はなすすべがない。冷血な主人公と、たじたじの敵とでは、敵の方が人間臭く、可哀相に思えてくることもあり、主人公の存在が作品を崇高なものにしている。このアニメ版は、その崇高さも、女キャラとのおセンチのせいで消滅している。主人公が人間臭くなりすぎたのである。もうちょっと主人公の霊的存在を強調して描けば、本作も哲学的な傑作になりえたかもしれない。そう僕は思った。

 




1992年/日本映画

<監督>
まつもとよしひさ

<出演>
草尾毅

(第99号「レビュー」掲載)

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