ドラえもんのび太のワンニャン時空伝 (レビュー)

ドラえもんを見て思わず涙が出る法則
(シンエイ動画・ブランド)
 「ドラえもん」を見て常々思うのは、「ドラえもん」という概念のパワーである。まずは内容はさておき、「ドラえもん」というだけで説得力がある。映画について語るとき、はたして内容だけで映画の価値を決めてよいものかと、僕はここに改めて悩まされたのである。内容を見る前に、既成概念の効力も忘れてはならないのだ。
 「ドラえもん」の映画の面白いところは、レギュラーのキャラクターたちが、自分たちの世界とはまるで違う未知の世界に訪れること。未知の世界の作り込みは毎度のことスケールが大きい。当然のごとく、いつも何らかの理由でドラえもんたちは未知の世界に足留めとなる。ドラえもんたちはその世界の住民たちと仲良くなるが、映画の最後には必ず辛い別れが待っている。「これっきり」という一期一会的な世界観と、必ず一回り成長するのび太の雄姿の2点こそ、「ドラえもん」映画の古典的な法則である。これは極度にパターン化されているため、観客も観る前からわかりきっているのだが、それでもこのシリーズが大人の鑑賞に耐えるのは、無意識的に人間心理を突いているからではないか。「ワンニャン時空伝」の場合は、死の淵にくる直前まで主人を待ち続けたワン公の姿が、意識せずとも、忠犬ハチ公という普遍的な感動要素を知らず知らずのうちに喚起し、のび太のヒーロー化という心理的に心地よい出来事に結びつけていく。さらに、子供のころから現在までに我々の心の中にいつまでも宿る「ドラえもん」という生きた概念と融合するのだから、そのパワーは絶大だ。僕はこの年になって、ますます「ドラえもん」が面白くなってきた。

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