ミザリー (レビュー)

Misery

★★★★1/2

【R指定】
<アメリカ/1990年/108分/ホラー>
製作:アンドリュー・シェイマン/製作・監督:ロブ・ライナー
原作:スティーブン・キング/脚本:ウィリアム・ゴールドマン
撮影:バリー・ソネンフェルド/音楽:マーク・シェイマン
出演:キャシー・ベイツ、ジェームズ・カーン、
リチャード・ファーンズワース、ローレン・バコール

注意:ネタをあかしています

●スティーブン・キングのホラー最高峰
 これは、一人の作家が山奥にある怖い怖いおばさんの家に監禁されてしまう映画である。
 スティーブン・キング小説の映画化作品も相当な数になるが、僕はその中でも「ミザリー」が最高傑作だろうと信じている。
 ロブ・ライナー監督はすでに「スタンド・バイ・ミー」でキング作品に着手し、絶賛をあびていたが、「ミザリー」ではカメラにおける登場人物の心理的意味を熱心に勉強したようで、ますます腕に磨きがかかっている。
  

●これは登場人物の表情を楽しむ映画である
 この映画は色々な人が「面白い」といった。僕の友達に「面白くなかった」といったものはいない。でも何がみんなを引きつけてやまなかったのか。その答えは登場人物の表情にあると見える。主人公の表情は、ときとしてコミカルに見えてくるほど深刻である。
 今度こそはと作戦を実行するも、それが大失敗したときの「絶望感」の表情と、その後にアニーに対して打つ「大芝居」のこのギャップの妙。主人公は何度も挑戦しては失敗する。仕方ないから、今度は随分と時間をかけて辛抱強く彼女をやっつける計画を練り、タイプライターを大石に見立て、ひたすら殴る練習を繰り返す。この涙ぐましい努力が面白い。
 

●キャシー・ベイツの異常ぷりが面白い
 何と言ってもキャシー・ベイツ扮するアニーの異常さが面白い。アニーの目つきは、焦点が相手よりも手前にあり、何を考えているのかわからない。罪の意識があるのかないのかさえも不明瞭であり、次に怒るのか笑うのかが、我々は全く予想がつかない。だから彼女の突然の行動にサスペンスを感じることができるのである。
 特に、彼女がシ瓶を持ったまま会話するシーンのあの異様は表現しがたい不気味さである。彼女はある日、ベッドに灯油をまいて主人公を脅すのだが、そのシーンの表情も普通に会話しているときと同じ表情であり、そこが怖い。
 彼女の異常さは、映画が進むにつれてだんだんとエスカレートしていくが、主人公が彼女の部屋を探索することにより、その怖さは格段に上がる。そばに彼女がいないのに、小道具だけで、アニーという人間の恐ろしさを浮かび上がらせたところは上出来である。
 なお、キャシー・ベイツはアカデミー賞で主演女優賞を受賞。恐らく、ホラー映画がこの賞を受賞したのは「ジキル博士とハイド氏」のフレドリック・マーチ以来およそ60年ぶりの話である。
 

●映画的カメラアングルとモンタージュ
 この映画は、ホラー映画独特の間とタイミング、不安感たっぷりのカメラアングルと効果音を実に心得ている。
 雷と同時にアニーのクロースアップを見せる王道的演出も当然興味深いが、独特な見所はむしろ静的なシーンにこそ表れる。
 カメラの位置は、主人公の目線に近く、上向きであり、それにより我々を無意識的に主人公の立場に立たせる。
 また、地べたにカメラを置いたり、極端な斜めアングルを多様しているようだが、そのことで、より密室の窮屈なムードを醸し出している。
 アニーの顔にズームするところは、異常さが強調されていて巧いし、主人公の姿を捉えるカメラも、主人公の哀れさを即座に伝達させる絶妙のタイミングであることに注目願いたい。
 それと、ハンマーで足を砕くシーンに使われた「月光」の見事な相乗効果、そしてクライマックスの2人の一騎打ちのダイナミックなカッティングは、それこそ映画にしか描けない魅力に満ちている。
 

最後に一言:ミザリーは「みじめ」という意味でもある

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