世界の中心で、愛をさけぶ (レビュー)

思い出の不思議。愛の不思議。
★★★★1/2

監督:行定勲
出演:大沢たかお、森山未來
(2004年日本映画)

※ネタバレ注意

 

 行定勲監督は凄い。出世作「GO」は「ファイトクラブ」のようなテクニカルな話術に感嘆させられたが、今作「世界の中心」は愛とか郷愁とか、そういった漠然とした人の気持ちを詩的に映像化し、これもまた大いに感心させられた。ユニークな伏線が張られ、現実と回想シーンが巧みに交錯しているが、その映像変化の滑らかさは、映画話術が成せる最良の形である。

 この映画に親近感がわくのは、心象風景を大切にしているからだろう。初恋の思い出。ファースト・キス。そういったピュアな感情を、まばゆいほど明るく美しい映像の中に描いている。校舎の屋上で焼きそばパンをほおばる姿も、女の子とバイクで二人乗りする姿も、ベッドに寝そべってラジオを聴く姿も、その瞬間の感覚がたまらない。ときおりぬっと現れる山崎努の存在も大きく、そこにおとぎ話のような要素が加味されている。心象風景は幾分か誇張されてるようにも見えるが、良い体験が実際よりも良い思い出として残り、悪い体験が実際よりも悪い思い出として残ることと同じである。だからこの映画の悲劇は実際よりももっと悲劇的に見える。主人公が見たくないものを見てしまったときの映像の衝撃は計り知れない。嫌なことでも明るく振る舞っている姿が余計に悲しく、この明暗の差異が、この映画をよりドラマチックなものにしている。

 「世界の中心で、愛をさけぶ」。このタイトルを、僕は見る前にどうしても好きになれなかったが、見てみて納得した。ちょっとオーバーではあるが、これくらいオーバーにしなければ、心象風景と釣り合わないというわけだ。恋人が「オーストラリアに行ってみたいな」といったら「行こうよ」と即答する。この勢いこそ愛の力であり、それがタイトルにも反映している。

 この映画には、もうひとつのラブ・ストーリーが描かれているが、それは「愛の不思議」と表現すべきか。大人になった主人公が婚約している女性は、実は昔の恋人の友達だったという不思議。彼女が小学生のとき、一度だけ会ったことがあったという不思議。二人が出会って今こうして一緒になっているという不思議。愛とはなんと不思議なものなのだろうか。長澤まさみよりも柴咲コウの方がずっと運命的で、愛おしく見えてくるのも、これもまた愛の不思議である。

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