アルマゲドン (レビュー)

■希少価値のあるカルトSF

 一般に「隕石が地球に落下する話」という風に告知されているが、そのことはこの際忘れてもらいたい。なぜなら隕石落下の描写そのものは、映像的にもストーリー的にもたいして迫力がなく、面白いものではないからである。どちらかというと本作は「宇宙漂流記」みたいなノリで見てもらいたいものである。まるで日本のSFマンガみたいなテイストなのである。このサイエンス・フィクション臭さは近年希少になってきたものであり、本作には久しぶりに堂々と「カルト」と称せられる一種神格化してもよいフィクション性がある。僕は昔「ブラックホール」というディズニーのカルト映画を見たことがあるが、今回はそれと似た衝撃を受けた。小惑星のインチキ臭いスケール感がまた実に60年代チックでたまらない魅力があるし、宇宙空間なのに少しもそれっぽくないところがフィクションぽくて面白く、宇宙シップ、宇宙タンク、宇宙ドリルのギミックにはほれぼれしてしまう。宇宙シップの乗組員たちが、地球上の最後の頼みの綱となり、小惑星で生きるか死ぬかのサバイバルに直面し、どんな苦難が立ちふさがろうとも、正義を貫きとおす異常なほど誇張された勇姿には、SFマニアのハートをくすぐるロマンチシズムがある。
 本作はフィクションなので、大切なことは、映像の迫力などではなく、劇中何が起こり、何を行動したかである。崖っぷちに突き当たって行き場を失ったとき、「ジャンプして飛び越えよう」と真顔で言うその無茶苦茶さが醍醐味なのである。

 

■ヒロイックな男性美、ゆえに恋愛描写が見苦しい

 乗組員の大半は不細工で、見ていてたまにムカツクときもあるが、その分ブルース・ウィリスがやたらとかっこよく見える。全人類の期待を背負ってるのだからなおのこと。ちょうどハンフリー・ボガートのようなかっこよさである。誰もが彼を信頼し、NASAのお偉いさんも彼にすべてを託す。もしNASAのお偉いさんが少しでも彼を信用しない目つきでもしたら、この映画のフィクションの力も失われていただろう。最後まで男を信用するところに本作の力づよいヒューマニズムがあるのである。ここまでヒロイズムが強調されると、死ぬ前に疎遠の娘に言うとことんクサい決めゼリフもすこぶる感動的に聞こえてくるものだ。
 僕が一番気に入っているところは、乗組員のひとりが出発の前日に離婚した妻に謝りに行き「でかい仕事が入った」と話すシーン。「でかい仕事」としか言わないところがヒロイックでいいのだ。そしてスペースシャトルのおもちゃを息子に渡すようにと家の前に置いていく。このおもちゃがうまい。おもちゃはヒーローに対する憧れの象徴となるものだからである。

 ところどころの恋愛描写はまったく不必要に思える。本作は子供たちやSFマニアが主力ターゲットと言えるので、理想としてはとことん最後までハードボイルドに行くべきなのだが、期待もしないはしたないシーンがあるせいで、ヒロイズムをぶちこわしているのである。ラストシーンは男が残したワッペンの「For All Mankind」という文字が最高にりりしく、じーんと感動させられるところなのだが、その後でキスシーンなんぞ見せられては全てが台無しである。しかも結婚式の映像まで付け加えられては興醒め必至。「For All Mankind」の文字を見せた後すぐにフェードアウトして締めれば、感動の余韻を残せられたろうに。

1998年/タッチストーン映画

<製作>
ジェリー・ブラッカイマー
ゲイル・アン・ハード
マイケル・ベイ

<出演>
ブルース・ウィリス
ビリー・ボブ・ソーントン
ベン・アフレック 

(第104号「レビュー」掲載)

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