至福のとき (レビュー)

現代派ワンルーム・コント
 盲目の少女を喜ばせるために、心優しい貧乏人たちが奮闘する話。楽しくて、おかしくて、ホロリとさせる一本。ここまでよくできたコメディ映画は、久しく見られなかった。チャン・イーモウは昔から田舎を舞台にした色彩豊かなアート系の作品に手腕を発揮してきた監督だが、このような愉快な現代派喜劇を軽く作ってしまうとは、大した才能である。
 見どころは、盲目の少女を取り巻く登場人物たちの不器用さ、鈍感ぶりである。主人公のダメ男っぷりときたら、面白いのと同時に、あふれんばかりの愛情が伝わってくる。鈍感ゆえに、心に響く。主人公の仲間達が、少女のためにでっちあげたマッサージ屋に、客のふりをして一人ずつ来店するシークェンスは、ワンルームの中で繰り広げる会話のユーモアに重きをおいた、ドリフのもしもコントのような内容で、イーモウのジョーク・センスが冴え渡っている。映像は他のイーモウ作品と比べて綺麗ではないが、登場人物たちの心の美しさは、どんな映像美にも適わない。この感動はチャップリン以来である。

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