サイドウェイ (レビュー)

ちょっぴり羨ましいコンビ
 2004年度の作品の中では最も批評家受けの良かった作品で、アカデミー賞の候補にもあがったのだが、受賞は逃した。おそらくアカデミー賞にしては内容が地味すぎたのだろう。しかし、ワインのウンチク映画、シンミリと感動を与えてくれるロード・ムービーということで、僕は断然気に入った作品である。これを見て以来、僕はワインにも凝りつつある。これが僕の心を動かすのは、これがひと事とは思えない映画だからである。2人のダメ男っぷりを見て、自分を投影させた観客も多かっただろう。
 今作はひとえに登場人物が素晴らしい。ちょっとしか出てこないお母さん役でさえ、妙に親近感を感じた。息子のマザコンぶりも面白い。相棒役のトーマス・ヘイデン・チャーチの描き方もうまく、主人公とは見事なデコボコぶりで、2人に共通点なんてないように見えるのだが、それでも仲が良く、お互いに信頼し合っている。どんなにケンカをしようとも、友情は深い。この二人の仲が見ていて時折羨ましくもあった。この点はポイントが高い。寅さん流に言えばマドンナ役にあたるヴァージニア・マドセンは、表情が優しく、この上なく魅力的な女性である。そして主人公と趣味が一致している。マイペースに趣味のネタだけで二人でこんなに深く会話できるなんて幸福である。
 作家志望の教師役を演じたポール・ジアマッティは見事の一言だ。苦心して書き上げた小説が出版社に認めてもらえず、やけくそになってワインをがぶ飲みするみじめっぷりが泣けてくる。ゴルフもへっぽこ。作家を目指しつつも、気の利いた決め言葉は有名作家の受け売りだったり、どこかできそこないなところが身につまされる。だから自分に自信がなく、片思いの女の子にもアタックできない。ところがワインのウンチクとなると、目が輝き、表情が生き生きとしてくる。そして興味のない人の前でも延々とウンチクをたれる。言っていることはちょっとばかりうさんくさいのだが、自信に満ちあふれている。もうワインしか趣味がないのかという、そのマイペースぶりが見ていて心地よい余韻を残す。そもそもロードムービーというジャンルは、この競争社会にして、マイペースに生きようとする姿勢が魅力的なのではある。結局主人公は挫折し、男泣きして終わってしまうのだが、エピローグで、人生捨てたもんじゃないというほのかな感動を与えてくれる。ちょっとあざとすぎる締め方かもしれないが、そこが良く、見終わってからじわじわとくる映画である。
2004/アメリカ・20世紀フォックス
監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ポール・ジアマッティ、トーマス・ヘイデン・チャーチ、ヴァージニア・マドセン、サンドラー・オー

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