キル・ビルVol.2ザ・ラブ・ストーリー (レビュー)
連続ドラマの最終回のごとき感慨深さ
「Vol.1」の評価を決めるのは「Vol.2」を見てからである。僕は「Vol.1」を評価するのを早まった。「Vol.1」だけ見た限りでは、あまりにも支離滅裂だったため、タランティーノの才能を過小評価してしまったが、本当はそれもタランティーノ流のニクイ演出だったということがわかった。1本にせず、2本に分けた理由もよくわかった。僕は「Vol.2」を見た今「Vol.1」も再評価したくなった。土下座して「タランティーノ様は天才です」といいたい気持ちである。いやはやタランティーノは映画界の変革者である。
「キル・ビル」は近年では稀にみる巧妙なパズル映画である。「Vol.1」だけでは断片的エピソードがバラバラに並べてあるだけの印象を受けたが、「Vol.2」を見ると、前作の抜けた部分が綺麗に組み立てられ、きちんとした一本の大河ドラマになっている。なんと洒落の利いたシナリオであろうか。完璧な構成力。誰もやろうとしなかったことをたやすく実現させた、これぞ天才である。
タランティーノは「Vol.1」「Vol.2」両方で、レトロな大衆向け映画の撮影技法をコピーした。見せ方だけでもどれだけ沢山のバリエーションがあったか。撮影技法の見本市としても相当なボリュームである。開巻からその話術・カメラワークにはうならせる。白を強調したモノトーンのコントラストの美しさ。「Vol.1」では一度も顔を見せなかったビルがいきなり初っぱなから登場。ビルとブライド(ユマ・サーマン)が互いに歩み寄っていく様子を足のクロースアップで見せる絶妙のカッティング。僕はこの演出から一気に映画に引き込まれた。
この映画はどの登場人物もやけにかっこいい。デビッド・キャラダインは久しぶりの大役であるが、ガラ声と、いぶし銀の演技、顔のアップがやたらと決まっている。ダリル・ハンナのあざといほどに悪役らしく誇張された黒い眼帯も、ものぐさでだらしのないマイケル・マドセンも、その動きのひとつひとつが、いかにもそれらしく決まっている。
殺し屋は殺し屋らしくという風に、登場人物は皆、「こういうキャラはこういう性格」という一種の格式を大切にしている。死に様も刑事ドラマかマカロニ・ウエスタンのような、それらしい最期である。あくまで、どこかで見たようなシンボリックなキャラクターになっていることがポイントである。そこが観客のノスタルジーをくすぐり、やたらとその様式美がかっこよく目前に映る。
後半は本当にじんときた。銃に撃たれた振りをして崩れ落ちるヒロイン。これは今年一番の名場面だろう。これを見たときに受けた例えようのない感動は、僕もかつて味わったことのないものだった。
ビルとブライドの対決を見るときの気持ちは、長い長い連続ドラマの最終回を見ている気持ちにも似ている。サンドイッチを作りながら話をするビル。とりあえず武器を捨てたブライド。BGMは流れず、静かである。二人の会話がなんと落ち着いていることか。長かったドラマがいよいよ終結を迎える直前の最後の息抜きといった趣であり、しみじみとさせる。
そして決着のシーン。宿命のライバルが、ついに最終回で決着をつける筋書きは、いつ見てもしびれるものであるが、その興奮がここに再現される。
ビルを倒し、番組が「終わった」という寂しさ、そして満足感。「Vol.3」も作るとのことで、次はどういう技を見せてくれるか期待が高まるが、とりあえずは「2」のこの余韻に浸っていたい。まったく感慨無量である。
★★★★1/2
(2004年・アメリカ)
製作:ローレンス・ベンダー
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:ユマ・サーマン、デビッド・キャラダイン、ダリル・ハンナ、マイケル・マドセン
「Vol.1」の評価を決めるのは「Vol.2」を見てからである。僕は「Vol.1」を評価するのを早まった。「Vol.1」だけ見た限りでは、あまりにも支離滅裂だったため、タランティーノの才能を過小評価してしまったが、本当はそれもタランティーノ流のニクイ演出だったということがわかった。1本にせず、2本に分けた理由もよくわかった。僕は「Vol.2」を見た今「Vol.1」も再評価したくなった。土下座して「タランティーノ様は天才です」といいたい気持ちである。いやはやタランティーノは映画界の変革者である。
「キル・ビル」は近年では稀にみる巧妙なパズル映画である。「Vol.1」だけでは断片的エピソードがバラバラに並べてあるだけの印象を受けたが、「Vol.2」を見ると、前作の抜けた部分が綺麗に組み立てられ、きちんとした一本の大河ドラマになっている。なんと洒落の利いたシナリオであろうか。完璧な構成力。誰もやろうとしなかったことをたやすく実現させた、これぞ天才である。
タランティーノは「Vol.1」「Vol.2」両方で、レトロな大衆向け映画の撮影技法をコピーした。見せ方だけでもどれだけ沢山のバリエーションがあったか。撮影技法の見本市としても相当なボリュームである。開巻からその話術・カメラワークにはうならせる。白を強調したモノトーンのコントラストの美しさ。「Vol.1」では一度も顔を見せなかったビルがいきなり初っぱなから登場。ビルとブライド(ユマ・サーマン)が互いに歩み寄っていく様子を足のクロースアップで見せる絶妙のカッティング。僕はこの演出から一気に映画に引き込まれた。
この映画はどの登場人物もやけにかっこいい。デビッド・キャラダインは久しぶりの大役であるが、ガラ声と、いぶし銀の演技、顔のアップがやたらと決まっている。ダリル・ハンナのあざといほどに悪役らしく誇張された黒い眼帯も、ものぐさでだらしのないマイケル・マドセンも、その動きのひとつひとつが、いかにもそれらしく決まっている。
殺し屋は殺し屋らしくという風に、登場人物は皆、「こういうキャラはこういう性格」という一種の格式を大切にしている。死に様も刑事ドラマかマカロニ・ウエスタンのような、それらしい最期である。あくまで、どこかで見たようなシンボリックなキャラクターになっていることがポイントである。そこが観客のノスタルジーをくすぐり、やたらとその様式美がかっこよく目前に映る。
後半は本当にじんときた。銃に撃たれた振りをして崩れ落ちるヒロイン。これは今年一番の名場面だろう。これを見たときに受けた例えようのない感動は、僕もかつて味わったことのないものだった。
ビルとブライドの対決を見るときの気持ちは、長い長い連続ドラマの最終回を見ている気持ちにも似ている。サンドイッチを作りながら話をするビル。とりあえず武器を捨てたブライド。BGMは流れず、静かである。二人の会話がなんと落ち着いていることか。長かったドラマがいよいよ終結を迎える直前の最後の息抜きといった趣であり、しみじみとさせる。
そして決着のシーン。宿命のライバルが、ついに最終回で決着をつける筋書きは、いつ見てもしびれるものであるが、その興奮がここに再現される。
ビルを倒し、番組が「終わった」という寂しさ、そして満足感。「Vol.3」も作るとのことで、次はどういう技を見せてくれるか期待が高まるが、とりあえずは「2」のこの余韻に浸っていたい。まったく感慨無量である。
★★★★1/2
(2004年・アメリカ)
製作:ローレンス・ベンダー
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:ユマ・サーマン、デビッド・キャラダイン、ダリル・ハンナ、マイケル・マドセン