宇宙戦争 (レビュー)

危機感が伝わらないのが残念
「宇宙戦争」は1953年にジョージ・パルが映画化しており、これは非常によくできた傑作で、僕も3回見たほどだ。それを我が尊敬するスピルバーグが今時になってリメイクするというから、ワクワクの度合いはケタ違いにでかい。しかし、もし今のレベルで53年の「宇宙戦争」と同じ脚本で作ったとしたら、笑い話にしか見えない映画になってしまう。例えば53年の「宇宙戦争」では白旗を持って円盤に近づき、レーザー光線で殺されるシーンなどがあるが、今のレベルでこれをやられると「マーズ・アタック!」にしかみえないだろう。また、53年版には核爆弾を浴びせても傷ひとつないというシーンもあったが、さすがにこのご時世に核を描くわけにもいかない。こういう文化違いをどのように脚色していくのか、僕は見る前からかなり興味があったが、その点では実に巧妙に現代テイストにアレンジしているように思えた。脚本という点では合格だ。生きていくためにはひたすら逃げるしかない。誰も彼も信用できなくなり、考えの違う奴は殺してまで逃げ延びようとするなど、53年版に比べるとちゃんと人間描写にも重点を置いている。
ストーリーだけなら、さも傑作のように思えてくるが、スピルバーグの演出には今ひとつ切れ味がなく、事の重大さと、迫り来る危機感が感じられなかった。スケールを大きくしすぎたせいで、一人一人の恐怖感がぼやけてしまったのかもしれないが、トム・クルーズが捕獲されながらも無敵の宇宙船を1隻やっつけてしまうところなど、うまくいきすぎて興醒めである。まだ53年版の方がなすすべのない怖さがあった。スピルバーグもお年か。これよりも僕は「未知との遭遇」の方にはるかに恐怖を感じる。

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