博士の愛した数式 (レビュー)

ただの数式が宇宙の神秘のごとく見えてくる
80分しか記憶が続かない数学者を描いた物語。久しぶりに「ヒューマン・ドラマ」と堂々と言える映画を見た気がした。最初に褒めるべきはキャストだ。寺尾聰、深津絵里、吉岡秀隆の3人は、まさに彼らにしかできないような役柄で、これ以上ない適役だ。寺尾聰が「実にいさぎよい数字だ」と言う様が落ち着いていて味わい深い。彼ら3人の優しさが何より心地よい余韻を残すが、そこに大物女優浅丘ルリ子を登場させ、彼女の役に持たせた秘密の仕掛けもストーリーの大きな刺激になっている。役者が決まったところで、ほぼこの映画は成功している。
見どころは、なんでもない数字を、さも魅力的に描いていることだ。まるで魔法であるかのように、ただの数式が、宇宙の神秘のごとく見えてきたり、美しいものに見えてくる。直線とは何か。素数とは何か。そうした数々の数式に人生の教訓を例えるユニークな話術に感動しきりである。数字をみてここまでワクワクさせられたのは初めてだろう。この数字の劇的魔力に浸るだけでもこの映画を見る価値は大きい。

オリジナルページを表示する